「マンジャロを注射していますが、胃カメラの前は休薬した方がいい?」「ダイエット目的でリベルサスを飲んでいます。いつも通り絶食すれば大丈夫でしょうか?」
マンジャロ®、リベルサス®、オゼンピック®などのGLP-1関連製剤は、糖尿病や肥満症の治療に広く使われています。一方で、これらの薬には胃から食べ物が排出される速度を遅くする作用があり、胃カメラや大腸カメラの前には少し注意が必要です。近年は「全員が一律に休薬する」という考え方ではなく、薬の種類や最終投与日、胃腸症状、糖尿病の状態などから一人ひとりに合わせて検査方法を調整することが重視されています。
目次
1. マンジャロ・リベルサスで胃に食べ物が残りやすくなる理由
マンジャロ®(チルゼパチド)、リベルサス®・オゼンピック®・ウゴービ®(セマグルチド)などは、GLP-1という消化管ホルモンの働きを利用した薬です。マンジャロはGIPとGLP-1の両方に作用するGIP/GLP-1受容体作動薬ですが、この記事では分かりやすさのため、これらをまとめて「GLP-1関連製剤」と表現します。
これらの薬は血糖値を改善するだけでなく、脳の満腹中枢にも働きかけて食欲を抑えます。さらに、胃から十二指腸へ食べ物を送り出す速度を遅くする「胃排出遅延」という作用があります。
■ 治療上のメリットが、胃カメラでは注意点になります
胃に食べ物が長く留まることで満腹感が続き、食後の急激な血糖上昇を抑えることができます。糖尿病・肥満症治療では大切な作用ですが、胃カメラでは通常の絶食を守っていても胃の中に固形物が残っている場合があることが問題になります。

GLP-1関連製剤は胃から十二指腸へ食べ物を送る速度を遅らせることがあります。
実際に胃の食べ物は残りやすい?
日本から報告された2023年の研究では、糖尿病患者を条件をそろえて比較したところ、胃カメラ時に食物残渣を認めた割合は、GLP-1受容体作動薬を使用していない患者の0.49%に対し、使用している患者では5.4%でした。海外からも胃内容物が残りやすくなることを示す報告が複数あります。ただし、多くは観察研究であり、GLP-1関連製剤だけが原因と断定できるわけではありません。
2. 胃カメラで食べ物が残っていると何が問題?
胃カメラの際に胃内へ食べ物が残っている場合、大きく2つの問題があります。
■ ① 嘔吐・逆流・誤嚥のリスク
鎮静剤を使用すると、眠気によって咳き込みなどの防御反射が弱くなります。その状態で胃内容物が逆流すると、食べ物や胃液が気管へ入り込む誤嚥(ごえん)につながる可能性があります。
誤嚥は頻度の高い合併症ではありませんが、胃に大量の固形物が残っている場合には安全を優先し、検査を中止・延期することがあります。
■ ② 胃がんなどの病変が見えにくくなる
胃カメラでは胃の粘膜を細かく観察し、早期胃がん、胃潰瘍、ポリープ、胃炎などを探します。しかし、胃壁に食物残渣が付着していると、その下の粘膜を十分に観察できません。
検査中に水で洗浄できることもありますが、固形物が多い場合は完全に取り除くことができません。安全性だけでなく、精度の高い胃カメラを行うためにも、胃内をできるだけ空にしておくことが重要です。
3. 大腸カメラの下剤にも影響する?
GLP-1関連製剤を使用している方では、便秘や腹部膨満感を認めることがあります。そのため、大腸カメラ前の腸管洗浄にも影響する可能性があります。
2025年に報告された約9,700人を対象とした多施設研究では、不十分な腸管前処置はGLP-1受容体作動薬使用群で10%、非使用群で4%でした。糖尿病や肥満などを調整した解析でも、GLP-1受容体作動薬の使用と前処置不良との関連がみられました。
一方、その後のメタ解析では「不十分な前処置そのものは明確に増えない」とする結果もあり、現在も研究結果は完全には一致していません。そのため、GLP-1関連製剤を使っているという理由だけで一律に休薬するのではなく、便秘の程度や過去の下剤の効き方をみながら前処置を調整することが現実的と考えられます。

胃カメラでは胃内容物、大腸カメラでは便秘や腸管前処置への影響に注意します。
便秘が強い方は予約時にお知らせください
「普段から数日に1回しか排便がない」「マンジャロなどを開始してから便秘が強くなった」「以前の大腸カメラで下剤が効きにくかった」といった方は事前にお申し出ください。必要に応じて、食事内容、事前に使用する下剤、腸管洗浄液を飲み始める時間などを個別に調整します。
4. 胃カメラ・大腸カメラ前に注意する主な薬
代表的なGLP-1関連製剤には次のような薬があります。糖尿病治療だけでなく、肥満症治療や自由診療で使用している場合も、内視鏡検査を予約するときに必ずお知らせください。
| 製品名 | 一般名 | 投与方法 |
|---|---|---|
| マンジャロ® | チルゼパチド | 週1回注射 |
| ゼップバウンド® | チルゼパチド | 週1回注射 |
| オゼンピック® | セマグルチド | 週1回注射 |
| ウゴービ® | セマグルチド | 週1回注射 |
| トルリシティ® | デュラグルチド | 週1回注射 |
| リベルサス® | セマグルチド | 毎日内服 |
| ビクトーザ® | リラグルチド | 毎日注射 |
美容クリニックやオンライン診療などで、「ダイエット注射」「痩せ薬」として使用している場合も同じです。病気の治療目的ではないから申告しなくてもよい、ということはありません。安全な検査のため、ダイエット目的で使用している方も遠慮なくお知らせください。
5. マンジャロは胃カメラの何日前まで?当院での考え方
GLP-1関連製剤を使用している方から最もよく聞かれるのが、「検査の何日前から休めばよいですか?」という質問です。
2023年には米国麻酔科学会から「週1回製剤は1週間休薬する」という考え方が提示されました。一方、その後のAGA(米国消化器病学会)や複数学会のガイダンスでは、全員に一律の休薬を求めるのではなく、患者さんごとのリスクを評価する方向へ変化しています。
■ 週1回注射なら「次回注射の直前」に検査を組むことがあります
マンジャロ、オゼンピックなどの週1回注射を使用している場合、当院では患者さんの状態に応じて、最後の注射から十分に日数が経過したタイミング、実務上は前回の注射から約1週間後となる「次回注射の直前」に胃カメラを設定することがあります。
ただし、ここで重要なのは、「1週間空ければ必ず胃が空になる」という意味ではありません。
2024年に報告されたセマグルチド使用患者の研究では、休薬期間が8~14日であっても胃内容物が残るリスクとの関連が認められ、消化器症状のない患者では14日を超える休薬で非使用者との差が明確でなくなったと報告されています。ただし、この研究は単施設の観察研究であり、すべての患者さんがそうとは限りません。
「1週間」という数字だけで判断しません
当院では、最終投与日だけでなく、
・マンジャロ、オゼンピックなど薬剤の種類
・現在の投与量
・開始したばかり、または増量直後ではないか
・吐き気、胃もたれ、腹部膨満感の有無
・便秘の程度
・糖尿病の血糖コントロール
などを確認し、検査日・食事・休薬の必要性を個別に判断します。
■ 特に慎重に判断するケース
次のような方では、胃内容物が残る可能性をより慎重に考えます。
・GLP-1関連製剤を開始したばかり、または増量中
・吐き気、嘔吐、強い胃もたれがある
・腹部膨満感が強い
・強い便秘がある
・糖尿病性胃不全麻痺など、もともと胃排出が遅くなる病気がある
6. 糖尿病治療中なら、自己判断で休薬しないでください
糖尿病治療としてマンジャロ、オゼンピック、リベルサスなどを使用している場合は、胃カメラのために自己判断で中止することはおすすめできません。
GLP-1関連製剤を休薬すると血糖値が上昇する可能性があり、インスリンやSU薬など他の糖尿病薬を使用している場合には、検査前の絶食に合わせてそれらの薬も調整する必要があります。
■ 必要に応じて他の糖尿病薬へ一時的に変更することもあります
患者さんの血糖値やHbA1c、GLP-1関連製剤の使用目的によっては、検査前だけGLP-1関連製剤を調整し、DPP-4阻害薬など胃排出への影響が比較的少ない糖尿病薬へ一時的に変更することを検討する場合があります。
ただし、DPP-4阻害薬とGLP-1関連製剤では血糖降下作用や体重への効果が同じではありません。また、内視鏡検査前にすべての患者さんをDPP-4阻害薬へ変更することが標準的に推奨されているわけでもありません。
そのため、他院で糖尿病治療を受けている方は、処方している主治医と相談したうえで調整することが原則です。
当院通院中の方は、糖尿病治療と内視鏡をまとめて調整できます
やまおか内科クリニックでは、胃カメラ・大腸カメラだけでなく糖尿病の診療も行っています。
当院で糖尿病治療中の方であれば、HbA1cや血糖値、使用している薬剤を確認しながら、検査日を次回注射の直前に設定する、必要に応じて薬を一時的に調整するなど、内視鏡検査まで含めて柔軟に対応できます。
「休薬したら血糖値が上がらないか心配」「どの薬を検査当日に飲めばよいか分からない」といったことも、診察時にお気軽にご相談ください。

薬の名前だけでなく、最終使用日・投与量・増量時期・胃腸症状まで確認することが重要です。
7. ダイエット目的で使用している方も必ずお知らせください
マンジャロやリベルサスなどは、糖尿病治療だけでなく、美容クリニックやオンライン診療などで減量目的に使用されるケースも増えています。
「糖尿病ではないから言わなくても大丈夫」「自費で購入した薬だから関係ない」と思われるかもしれませんが、胃排出への作用は使用目的によって変わるわけではありません。
ダイエット目的・自由診療で使用している場合も、胃カメラ・大腸カメラ予約時に必ずお知らせください。
減量目的で使用している方では、糖尿病治療中の方とは休薬による血糖上昇のリスクが異なるため、検査日や一時的な休薬について比較的調整しやすい場合があります。ただし、自己判断で中止するのではなく、現在の投与量や胃腸症状を確認してから判断します。
8. 胃カメラ前の食事はどうする?
現在の複数学会ガイダンスでは、GLP-1関連製剤を使用しているすべての方が一律に休薬する代わりに、胃内容物が残るリスクの高い患者では検査前24時間を液体中心の食事にすることも対策の一つとして示されています。
一方で、糖尿病患者さんでは絶食時間を不必要に長くすると、低血糖や血糖変動につながる場合もあります。そのため、自己判断で極端な絶食を行うのではなく、医療機関から指示された食事・水分摂取方法を守ってください。
予約時に伝えていただきたい5つのこと
① 製品名:マンジャロ、リベルサス、オゼンピックなど
② 使用目的:糖尿病治療、肥満症治療、ダイエット目的など
③ 最終使用日:最後に注射・内服した日
④ 投与状況:現在の量、最近増量したか
⑤ 胃腸症状:吐き気、胃もたれ、腹部膨満、便秘など
9. よくある質問
10. まとめ|マンジャロ・リベルサス使用中でも内視鏡検査は可能です
マンジャロ、リベルサス、オゼンピックなどのGLP-1関連製剤は、糖尿病や肥満症の治療に有用な薬です。一方、胃排出を遅らせる作用があるため、胃カメラでは胃内容物が残る可能性、大腸カメラでは便秘や前処置への影響を考慮する必要があります。
しかし、GLP-1関連製剤を使用しているからといって、胃カメラや大腸カメラを受けられないわけではありません。
当院では、週1回注射の場合は必要に応じて最後の注射から約1週間経過した次回投与直前に検査を設定するなど、検査日を調整します。ただし、「1週間空ければ必ず安全」という意味ではなく、胃腸症状や投与量、増量時期なども含めて総合的に判断します。
糖尿病治療中の方では、必要に応じてGLP-1関連製剤を一時的に調整したり、DPP-4阻害薬など他の糖尿病薬への変更を検討することもあります。当院通院中の方であれば、血糖値やHbA1cを確認しながら糖尿病治療と内視鏡検査を一つの医療機関で柔軟に調整できます。
また、ダイエット目的やオンライン診療でマンジャロ・リベルサスなどを使用している方も、遠慮する必要はありません。安全な検査のため、予約時に使用していることをお知らせください。
大阪市平野区のやまおか内科クリニックでは、糖尿病診療と消化器内視鏡検査の両方に対応しています。「胃カメラ前にマンジャロをどうしたらいい?」「休薬したら血糖値が心配」「ダイエット目的でGLP-1製剤を使っている」といったご相談も含め、お気軽にお問い合わせください。
11. 参考文献
1. Kobori T, Onishi Y, Yoshida Y, et al. Association of glucagon-like peptide-1 receptor agonist treatment with gastric residue in an esophagogastroduodenoscopy. J Diabetes Investig. 2023;14(6):767-773.
2. Silveira SQ, da Silva LM, Abib ACV, et al. Relationship between perioperative semaglutide use and residual gastric content: A retrospective analysis of patients undergoing elective upper endoscopy. J Clin Anesth. 2023;87:111091. DOI: 10.1016/j.jclinane.2023.111091.
3. Santos LB, Mizubuti GB, Muniz da Silva L, et al. Effect of various perioperative semaglutide interruption intervals on residual gastric content assessed by esophagogastroduodenoscopy: A retrospective single center observational study. J Clin Anesth. 2024;99:111668. DOI: 10.1016/j.jclinane.2024.111668.
4. Yao R, Gala KS, Ghusn W, et al. Effect of Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists on Bowel Preparation for Colonoscopy. Am J Gastroenterol. 2024;119(6):1154-1157. DOI: 10.14309/ajg.0000000000002564.
5. Abu-Freha N, et al. Glucagon-like peptide-1 receptor agonists significantly affect the quality of bowel preparation for colonoscopy. Endoscopy. 2025. DOI: 10.1055/a-2419-3875.
6. Quality of bowel preparation for colonoscopy in patients on glucagon-like peptide-1 receptor agonists. Gastrointest Endosc. 2025. DOI: 10.1016/j.gie.2024.11.024.
7. Bowel preparation quality in patients using glucagon-like peptide-1 agonists: a systematic review and meta-analysis. Gastrointest Endosc. 2026;103(2):235-240.e5. DOI: 10.1016/j.gie.2025.08.027.
8. Hashash JG, Thompson CC, Wang AY. AGA Rapid Clinical Practice Update on the Management of Patients Taking GLP-1 Receptor Agonists Prior to Endoscopy: Communication. Clin Gastroenterol Hepatol. 2024;22(4):705-707. DOI: 10.1016/j.cgh.2023.11.002.
9. Kindel TL, Wang AY, Wadhwa A, et al. Multi-society clinical practice guidance for the safe use of glucagon-like peptide-1 receptor agonists in the perioperative period. Surg Endosc. 2025;39(1):180-183. DOI: 10.1007/s00464-024-11263-2.
10. American Gastroenterological Association. Management of patients taking GLP-1 receptor agonists prior to endoscopy. Clinical Practice Update.
11. 日本医薬品医療機器総合機構(PMDA).マンジャロ皮下注(チルゼパチド)添付文書・医療用医薬品情報.
12. 日本医薬品医療機器総合機構(PMDA).リベルサス錠(セマグルチド)添付文書・医療用医薬品情報.
この記事を書いた人
やまおか内科クリニック
院長 山岡 祥
大阪大学医学部卒業
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本糖尿病協会 登録医
大阪市平野区で、糖尿病・生活習慣病の診療から胃カメラ・大腸カメラまで幅広く診療しています。糖尿病治療と消化器内視鏡検査の両方を行うクリニックとして、マンジャロやリベルサスなどGLP-1関連製剤を使用中の患者さんについても、血糖管理と検査の安全性の双方を考えた個別調整を行っています。










