過敏性腸症候群~お腹の調子が悪い方へ~

はじめに

「お腹の調子がずっと悪い」「下痢や便秘を繰り返して困っている」「お通じをするとお腹の痛みが良くなる」
このような症状で困っておられませんでしょうか。その症状の原因は過敏性腸症候群(IBS)かもしれません。
過敏性腸症候群(IBS)とは、「検査では異常がないにも関わらず数か月にわたってお腹の痛みがあり、痛みと関連して便秘や下痢といった便通の異常がある」疾患です。日本では、人口の約15%の方が過敏性腸症候群(IBS)であると言われており、悩まれている方が多いご病気です。

過敏性腸症候群の診断

過敏性腸症候群(IBS)の診断には、腹痛・下痢・便秘の原因となる他の病気が隠れていないことが前提です。そのうえで

  1. 腹痛が最近3ヶ月で、1週間に少なくとも1日以上ある。
  2. 腹痛や腹部の不快感が①「排便に関連する」②「排便頻度に関連する」③「便の形状に関連する」
    ①から③のうち2つを満たす。

これらaとbの2項目を満たすと、過敏性腸症候群(IBS)の診断となります。(RomeⅣ基準)
また過敏性腸症候群(IBS)は男性よりも女性に多い傾向があります(男:女=1:2)。
便秘が主体の「便秘型」、下痢が主体の「下痢型」、両方起こる「混合型」に分けられ、男性には下痢型が多く、女性は便秘型が多いと言われています。

過敏性腸症候群の診断には、重大な疾患が隠れていないか確認することが大切です。
以下の症状がある場合は他の疾患の可能性があり、注意が必要です。

  • 熱がある
  • 関節に痛みがある
  • 便に血が混じる
  • 体重減少がある
  • お腹にこぶが触れる、等

腹痛・下痢・便秘に加えてこれらの症状がある場合には、以下の疾患の可能性があります。

  • 炎症性腸疾患や感染性腸炎といった腸に炎症が起こっている疾患
  • 大腸癌などの悪性腫瘍
  • ホルモン(甲状腺など)の異常をきたす疾患

検査について

まず血液検査や検便(便潜血)、レントゲン検査を行います。血液検査で貧血・炎症・ホルモン異常などがある、検便(便潜血)が陽性、腹部X線で異常所見がある場合は、大腸内視鏡検査やCTといった検査を追加します。
診察や検査から、他の病気の可能性が低いと判断され、先述のRomeⅣ基準を満たした場合に過敏性腸症候群(IBS)の診断に至ります。

治療について

過敏性腸症候群の治療は食事療法・生活習慣の改善・薬物療法に分けられます。

食事療法について

  • 規則的な食事摂取、間食や欠食を避ける
  • 水分を十分に摂取する
  • 症状を悪化させる食品を避ける(脂質、カフェイン、香辛料を多く含む食品、ミルク・乳製品など)

避けるべき食品に関しては個人差があるため、これらすべてを避ける必要があるわけではありません。
それぞれの患者さんに合った対応が大切です。

生活習慣について

適度な運動が過敏性腸症候群に効果があると報告されています。同報告では、IBSの症状だけでなく、嘔吐やげっぷ、満腹感、倦怠感、胸やけ、排尿障害等も改善しており、さまざまな症状に対して運動療法は有用と考えられます。

喫煙との関係性は示されていませんが、喫煙は過敏性腸症候群以外にもさまざまな疾患(高血圧、脳卒中、心筋梗塞、肺癌など)のリスクであり、可能であれば禁煙が好ましいでしょう。

短期間の多量の飲酒(ワイン120ml以上、ビール240ml以上、ウイスキー30ml以上)は下痢の原因になりますが、軽度から中程度の飲酒と過敏性腸症候群との関係は不明です。

内服薬について

症状に合わせた薬剤を使用します。ガイドラインで記載されいてる薬は以下の通りです。

  • 腹痛:抗コリン薬(トランコロン、ブスコパン)
  • 下痢型:セロトニン受容体拮抗薬(イリボー)、乳酸菌製剤(ビオフェルミン等)、止痢薬
  • 便秘型:粘膜上皮機能変容薬(アミティーザ、リンゼス)、胆汁酸トランスポーター阻害薬(グーフィス)、セロトニン作動薬(モサプリド)、非刺激性下剤(酸化マグネシウム)、刺激性下剤(センノシド、ピコスルファート)
  • 混合型:消化管運動機能調整薬(セレキノン)

一部の漢方も効果的です(桂枝加芍薬湯、半夏瀉心湯、大建中湯など)。
また過敏性腸症候群は、“不安”や“うつ”の合併も少なくないため、上記の薬以外に抗うつ薬や、抗不安薬などを使用する場合があります。
必要に応じて心療内科の受診も考慮します。

お腹の症状やライフスタイルは患者さんによって様々です。
内服治療だけでなく、食事習慣や運動習慣なども含めて個々に合った治療法を模索することが大切です。

最後に

過敏性腸症候群に悩まれている方は少なくありません。日常生活の質が損なわれ、心理面にも悪影響を及ぼす疾患です。
また便通異常には他の疾患が隠れている場合もあります。
過敏性腸症候群に限らず、「お腹」の症状で悩まれている方は一度かかりつけ医にご相談してはいかがでしょうか。

2022年春に開院予定の「やまおか内科」(大阪市平野区・JR「平野駅」徒歩9分)にもお気軽にご相談ください。

文献)
日本消化器病学会:機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群
Gastroenterology 2016 Feb 18 ;S0016-5085(16)00222-5
Clin Gastroenterol Hepatol 2008; 6:765-771
Am J Gastroenterol 2011; 106: 915-922

関連記事

  1. アレルギー性鼻炎(花粉症・通年性)でお悩みの方

  2. 糖尿病における食事・運動療法について

  3. 令和5年度のコロナワクチンについて

  4. 脂質異常症(高脂血症)

  5. 頭痛でお悩みの方へ

  6. 気管支喘息

PAGE TOP