「帯状疱疹ワクチンを打つと、認知症や脳卒中まで予防できる??」
帯状疱疹ワクチンの本来の目的は、帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛を予防することです。一方、2024~2026年にはNature、Nature Medicineなどから、認知症や心血管疾患との関連を調べた興味深い研究が相次いで報告されています。この記事では、すでに確立している効果と、まだ研究段階にある「将来の病気を減らす可能性」について解説します。
帯状疱疹ワクチンはもちろん「帯状疱疹にならないためのワクチン」です。特に重要なのが、皮膚症状が治ったあとも長く痛みが続く帯状疱疹後神経痛(PHN)を含めた合併症を防ぐことです。
しかし最近では、「水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化や、それに伴う炎症を抑えることが、脳や血管にも良い影響を与えるのではないか」という研究が進んでいます。
目次
1. まず知っておきたい「帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛」
帯状疱疹は、子どもの頃などに感染した水ぼうそう(水痘)の原因である水痘・帯状疱疹ウイルスが、体内の神経に潜伏し続け、加齢や免疫機能の低下などをきっかけに再び活動することで発症します。
体の左右どちらかに、痛みを伴う赤い発疹や水ぶくれが帯状に現れるのが典型的です。顔面や胸部、腹部、臀部などに出現します。
■ 特につらい合併症が「帯状疱疹後神経痛」
代表的な合併症が帯状疱疹後神経痛(PHN)です。皮膚の発疹が治ったあとも、「焼けるように痛む」「服が触れるだけで痛い」といった神経痛が長期間残ることがあります。いわゆる後遺症であり、鎮痛薬の長期間服用が必要なケースもありますが、治療に難渋するケースも少なくありません。
また高齢になるほど帯状疱疹後神経痛のリスクは高くなるため、帯状疱疹では「発症してから治療する」だけでなく、そもそもの発症を予防することが重要です。

水ぼうそうのウイルスは神経に潜伏し、年月がたってから帯状疱疹として再活性化します。
2. シングリックスの予防効果はどれくらい続く?
日本で使用されている帯状疱疹ワクチンには、生ワクチンと組換えワクチンのシングリックスがあります。
厚生労働省では、シングリックスの帯状疱疹に対する予防効果について、接種1年後で9割以上、5年後でも9割程度と案内しています。また、帯状疱疹後神経痛についても、接種3年時点で9割以上の予防効果が報告されています。
シングリックスは11年後も高い予防効果
2025年に発表された長期追跡研究ZOE-LTFUでは、50歳以上を対象に、2回目接種1か月後から最長約11年までを通した帯状疱疹に対する有効率は87.7%(95%信頼区間 84.9~90.1%)でした。11年目だけをみても有効率は82.0%と推定されています。ただし11年目の95%信頼区間は63.0~92.2%と幅があり、年単位の数字には不確実な側面もあります。
これを踏まえて現時点で期待できるメリットは、
① 帯状疱疹そのものを予防する
② 帯状疱疹後神経痛などの合併症を予防する
この2点です。帯状疱疹ワクチンの種類、接種回数、費用については、当院の予防接種・帯状疱疹ワクチンのご案内もご覧ください。
3. 帯状疱疹ワクチンで脳卒中・心血管疾患も減る?
最近注目されているのが、帯状疱疹と「血管」の関係です。
水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化すると、神経だけでなく血管にも炎症を起こすことがあります。これまでの研究でも、帯状疱疹を発症した後には脳卒中などの心血管イベントが増えることが報告されてきました。
■ 2026年Nature Medicineの研究
2026年8月26日、Nature Medicineに、帯状疱疹ワクチンと心血管疾患を調べた研究が発表されました。
対象は60歳以上で、米国で生ワクチンが主に使われていた2017年の接種者36,460人と、シングリックスなどの組換えワクチンが主に使われるようになった2018年の接種者36,460人を比較しました。
単純な「接種した人」と「接種しなかった人」の比較ではなく、ワクチンの切り替わりを利用した自然実験に近い研究デザインを用いている点が特徴です。
7年間の心血管疾患の負担が9%少ない関連
組換えワクチンが主に使用された群では、虚血性心疾患・心不全・脳梗塞を合わせた心血管イベントの負担が、7年間で9%少ない関連がみられました(RMTL比 0.91、95%信頼区間 0.88~0.95)。
個別では、虚血性心疾患が10%、心不全が12%少ない関連を認めました。一方、脳梗塞については全体では明確な差が確認されず、男性に限った解析で12%少ない関連がみられています。
ここでいう「9%少ない」は、接種した人の9%が心血管疾患を防げたという意味ではありません。研究で用いられたRMTL(病気と診断されるまでに失われた時間を比較する指標)に基づく相対的な差です。
また、この研究は興味深いものの、ランダム化比較試験ではありません。そのため、「シングリックスを接種すれば心筋梗塞や心不全を予防できる」と証明されたわけではありません。
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帯状疱疹・PHNの予防効果は確立していますが、認知症や心血管疾患への効果は現在も研究段階です。
4. 帯状疱疹ワクチンで認知症リスクも低下する?
心血管疾患以上に研究が進んでいるのが、帯状疱疹ワクチンと認知症との関係です。
■ 2024年:シングリックス接種後は認知症診断までの期間が長かった
2024年のNature Medicineでは、米国で生ワクチンから組換えワクチンへ急速に切り替わった時期を利用して、接種者を比較しています。
それぞれ103,837人をマッチングして解析したところ、組換えワクチンが主に使用された群では、生ワクチンが主に使用された群と比較して、6年間で認知症と診断されずに過ごす期間が17%長い関連が認められました。
認知症を発症した人で換算すると、診断を受けずに過ごす期間が平均164日長いという結果でした。ただし研究者自身も、これは観察研究であり、因果関係を証明するものではないとしています。
■ 2025年Nature:ウェールズの「自然実験」
さらに大きな注目を集めたのが、2025年にNatureへ発表された研究です。
英国ウェールズでは、生年月日によって帯状疱疹ワクチンを接種できるかどうかが明確に分かれていました。研究者はこの制度を利用し、ワクチン対象となった人と、誕生日がわずかに早いため対象にならなかった人を比較しました。
解析対象は282,541人で、7年間に35,307人が新たに認知症と診断されました。
新規認知症診断が相対的に約20%少ない結果
実際にワクチンを接種したことによる効果を統計的に推定すると、7年間の新規認知症診断は絶対差3.5ポイント、相対的には20.0%少ない結果でした(95%信頼区間 6.5~33.4%の相対減少)。健康意識の高い人ほどワクチンを受けやすい「健康接種者バイアス」の影響を比較的受けにくい研究デザインであった点が注目されています。
■ 2026年にはシングリックス2回接種者を約33万人で解析
2026年のNature Communicationsでは、65歳以上でシングリックスを2回接種した65,800人と、接種していない263,200人を比較しました。
通常の解析では認知症リスクが51%低い関連が認められましたが、ワクチンを受ける人ほど健康行動をとりやすい影響を確認するため、Tdapワクチン接種者と比較した解析では調整ハザード比0.73(95%信頼区間 0.67~0.79)でした。
このことからも、帯状疱疹ワクチンと認知症との関連は非常に興味深い一方で、単純な「接種者と非接種者」の比較だけでは効果を大きく見積もる可能性があることが分かります。
また、この研究は米国の医療データを使用した観察研究であり、日本人にも同じ数字がそのまま当てはまるとは限りません。
5. なぜ認知症や心血管疾患が少なくなる可能性があるの?
正確な仕組みはまだ分かっていません。現在、いくつかの仮説が研究されています。
■ ウイルス再活性化と炎症を抑える可能性
一つは、水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化そのものを抑える効果です。
ウイルス再活性化に伴う血管炎や全身の炎症が減れば、脳や心臓の血管へのダメージを減らせる可能性があります。認知症についても、神経に潜伏するヘルペスウイルスと慢性的な神経炎症との関連が以前から研究されています。
■ シングリックスのアジュバントによる免疫反応
もう一つ研究されているのが、シングリックスに含まれるアジュバントの作用です。アジュバントとは、ワクチンに対する免疫反応を高めるために加えられる成分です。
シングリックスに使用されているAS01というアジュバントが免疫細胞の働きに比較的長期間の変化を起こし、それが血管や神経の炎症に影響している可能性も検討されています。
現時点では「認知症予防ワクチン」ではありません
現在の帯状疱疹ワクチンの接種目的は、帯状疱疹とその合併症の予防です。認知症、心筋梗塞、心不全、脳卒中を予防する目的で推奨されているわけではありません。最新研究は有望ですが、今後のランダム化比較試験やメカニズム研究による確認が必要です。
6. それでも帯状疱疹ワクチンを接種する意味は十分にあります
認知症や心血管疾患への効果が今後どのように評価されるとしても、帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛を予防する効果はすでに確立しています。
特に年齢とともに帯状疱疹の発症リスクは高くなります。また、糖尿病などの慢性疾患がある方や、病気・治療によって免疫機能が低下している方では、帯状疱疹についてより注意が必要です。
シングリックスは2回接種が必要で、接種部位の痛み、筋肉痛、疲労、頭痛、発熱などが比較的起こりやすいワクチンです。一方、高い発症予防効果と長期間の効果持続が特徴です。
7. 2026年度の大阪市の帯状疱疹ワクチン定期接種
帯状疱疹ワクチンは、2025年度から予防接種法に基づく定期接種となりました。
2026年度(令和8年度)の大阪市では、2026年4月1日~2027年3月31日の間に、65・70・75・80・85・90・95・100歳になる方などが定期接種の対象です。
また、60~64歳でHIVによる免疫機能障害があり、一定の基準を満たす方も対象となります。
| ワクチン | 接種回数 | 大阪市の自己負担額 |
|---|---|---|
| 生ワクチン | 1回 | 4,500円 |
| 組換えワクチン (シングリックス) |
2回 | 11,000円×2回 合計22,000円 |
シングリックスは通常、2か月以上の間隔をあけて2回接種します。大阪市では、2026年度に2回とも定期接種の助成を受けるためには、遅くとも2027年1月末までに1回目を接種し、2027年3月31日までに2回目を終える必要があります。
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2026年度の大阪市定期接種では、対象年齢と年度内の接種期限を確認しておくことが大切です。
平野区だけでなく、東住吉区・生野区など大阪市内にお住まいで対象となる方も、同じ大阪市の定期接種制度を利用できます。
当院でも帯状疱疹ワクチンの接種に対応しています。接種対象やワクチン選びについては、大阪市の帯状疱疹ワクチン接種について詳しく見るをご確認ください。
8. 帯状疱疹ワクチンについてよくある質問
9. まとめ ― 帯状疱疹予防のその先へ
現在の研究を整理すると、帯状疱疹ワクチンには次のような段階があります。
確立している効果
帯状疱疹の予防 → 帯状疱疹後神経痛などの合併症予防
現在研究されている効果
認知症・虚血性心疾患・心不全などへの良い影響
認知症や心血管疾患については、まだ「確立した予防効果」とまでは言えません。それでも、2024~2026年にNature、Nature Medicine、Nature Communicationsなどから相次いで研究が発表されており、今後非常に注目される分野だと思います。
私自身、帯状疱疹ワクチンは単に「痛い帯状疱疹を防ぐ」というだけでなく、高齢期の健康を守る予防医療の一つとして、今後さらに重要性が高まっていく可能性があると感じています。
一方で、新しい研究結果を過大評価せず、現時点で確立しているメリットと研究段階の可能性を分けて考えることも大切です。
帯状疱疹ワクチンを検討されている方は、年齢、基礎疾患、これまでの帯状疱疹やワクチン接種歴を確認しながら、ご自身に適したワクチンを相談してみてください。
10. 参考文献
1. Taquet M, Dercon Q, Todd JA, et al. The recombinant shingles vaccine is associated with lower risk of dementia. Nature Medicine. 2024;30:2777-2781. DOI: 10.1038/s41591-024-03201-5.
2. Eyting M, Xie M, Michalik F, et al. A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia. Nature. 2025;641:438-446. DOI: 10.1038/s41586-025-08800-x.
3. Strezova A, Díez Domingo J, Cunningham AL, et al. Final analysis of the ZOE-LTFU trial to 11 years post-vaccination: efficacy of the adjuvanted recombinant zoster vaccine against herpes zoster and related complications. EClinicalMedicine. 2025;83:103241. DOI: 10.1016/j.eclinm.2025.103241.
4. Rayens E, Sy LS, Qian L, et al. Recombinant zoster vaccine is associated with a reduced risk of dementia. Nature Communications. 2026;17:2056. DOI: 10.1038/s41467-026-69289-0.
5. Corsi-Zuelli F, Li F, Upthegrove R, et al. Recombinant shingles vaccination and the risk of cardiovascular events. Nature Medicine. Published online August 26, 2026. DOI: 10.1038/s41591-026-04606-0.
6. 厚生労働省.帯状疱疹ワクチン.2025年度より65歳の方などを対象に定期接種を開始。帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛に対するワクチンの効果・接種対象・接種スケジュールを掲載。
7. 大阪市.帯状疱疹ワクチン接種について.2026年6月26日更新.令和8年度の定期接種対象者、自己負担額、接種回数および接種期限を掲載。
この記事を書いた人
やまおか内科クリニック
院長 山岡 祥
大阪大学医学部卒業
日本消化器病学会 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
日本糖尿病協会 登録医
大阪市平野区で、内科・生活習慣病・消化器疾患を中心に診療しています。予防接種についても、年齢だけでなく糖尿病などの基礎疾患、治療内容、過去の接種歴を確認しながら、一人ひとりに適した接種方法をご案内しています。
帯状疱疹ワクチンをご検討の方へ
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