痛風と高尿酸血症について

「痛風」は体内で過剰になった「尿酸」が関節に溜まって結晶化し、炎症を引き起こすことで腫れや痛みを生じる病気です。足の親指の関節が腫れることが多く、激痛を伴うことがあります。男性に多くみられ、風が吹いても痛い、ということで「痛風」と呼ばれています。
痛風はもともと尿酸値が高い人に起こります。血中の尿酸値が高いことを、「高尿酸血症」といい、「痛風」と「高尿酸血症」について解説します。

そもそも「尿酸」とは?

「尿酸」は、食事や、細胞に含まれている「プリン体」を分解した際にできる物質です。
人間の体内には、成人男性でおよそ1200㎎(700~1700mg)の尿酸が存在しています。食事摂取や、細胞の分解により1日あたりおよそ700㎎の尿酸が生成されますが、増えた尿酸の2/3は尿から、1/3は腸から排出されることで、体内の尿酸量は維持されています。
血中の尿酸値の正常値は大体5~6mg/dl程度ですが、尿酸値が7.0mg/dlを超えている状態を「高尿酸血症」と言います。

なぜ尿酸値が上がるのか?

尿酸値が上昇する原因は、もともとの体質による「原発性」と、基礎疾患や薬物といった明らかな原因がある「二次性」とがあります。
「二次性」高尿酸血症は、尿酸を対外に排出する力が低下した「尿酸排泄低下型」、尿酸の生成量・摂取量が多い「尿酸過剰生成型」、その両方がある「混合型」に分けられます。

それぞれ以下の原因が考えられます。

尿酸排泄低下型
・腎疾患
・代謝・内分泌性(脱水、高乳酸血症)
・薬剤性(利尿薬、免疫抑制剤、抗結核薬など)

尿酸過剰生成型
・遺伝性代謝性疾患
・細胞増殖の亢進、組織破壊の亢進(悪性腫瘍、腫瘍崩壊症候群、横紋筋融解症)
・甲状腺機能低下
・高プリン食摂取
・薬剤性(テオフィリン、リバビリンなど)

混合型
・糖現病1型
・肥満
・妊娠高血圧症候群
・飲酒
・運動負荷
・外傷や熱傷 等

血中の尿酸値が高くなると?

高尿酸血症は様々な疾患のリスクと考えられおり、大きく以下の4つがあります。

  • 痛風
  • 腎障害
  • 尿路結石
  • メタボリックシンドロームとの関連

痛風のリスク

高尿酸血症により関節内に尿酸一ナトリウム結晶(MSU結晶)が蓄積し、関節に炎症が起こった状態を痛風発作と呼びます。高尿酸血症の方全員に痛風発作が出現するわけではありませんが、高尿酸血症の期間が長く、また高度であるほど発作が起こりやすいと考えられます。

痛風発作の頻度は、成人男性の1~1.5%程度です。
明治時代初期には痛風患者はほとんどいなかったと考えられており、生活習慣を含めた環境要因の影響が大きく関わっています。
具体的にはプリン体の摂取、肉類・内臓類の摂取増加、飲酒、激しい筋肉運動、果糖の摂取、ストレス、肥満などは痛風発作のリスクとなり得ます。また特定の疾患や薬物の使用も高尿酸血症・痛風発作の原因となります。

痛風とアルコール摂取・食事について

アメリカの研究では、アルコール摂取量が50g/日以上で痛風発症リスクが2.5倍になると報告されています。またアルコールの種類によってリスクは異なり、ビールでは1.5倍、蒸留酒では1.2倍となるが、ワインではリスクは上昇しませんでした。また肉類や魚介類の摂取やソフトドリンクの摂取が多いと痛風リスクが高いと報告されています。

腎障害のリスク

尿酸の70%が腎臓から排出されています。腎臓の機能が低下している慢性腎臓病では、尿酸の排泄も低下するため、高尿酸血症を認めることが多いです。しかしながら最近の研究では、高尿酸血症は痛風の原因だけでなく、腎障害や高血圧、心血管病との関連が示されています。Liらは、尿酸値の上昇は、慢性腎臓病の新規発症と有意に関連していると報告しています。また尿酸値を下げる薬を服用することで、腎機能障害の進行を抑制する可能性も示唆されています。

メタボリックシンドロームとの関連について

高尿酸血症はメタボリックシンドロームの診断基準に含まれてはいませんが、高尿酸血症や痛風患者さんではメタボリックシンドロームを合併している頻度が高く、密接に関連していると考えられています。高尿酸血症が直接メタボリックシンドロームの原因となるかは分かっていませんが、 尿酸値はメタボリックシンドロームの一つの指標として重要です。 

「痛風」の診断と治療

痛風の特徴としては

  • 中年男性に多い
  • 一つの関節に発作が生じ、発症後24時間以内にピークに達する
  • 足の親指の付け根の関節が多い
  • 10日ほどで自然に良くなる
  • 既に高尿酸血症と言われている
  • 無治療の場合は発作の頻度が高くなり、関節にこぶ(痛風結節)ができる
  • 発作中は尿酸値が低いことが多い

などがあります。痛風と区別が必要な疾患としては、外傷性関節炎、偽痛風、化膿性関節炎、関節リウマチなどがあります。
診断のために関節エコーや関節穿刺、血液検査を行うこともあります。

痛風発作に用いられる薬は、鎮痛薬(NAIDs)・コルヒチン・ステロイドになります。発作時には関節の炎症を抑える治療が重要です。
症状に応じて薬の使い分けや併用を行いますが、基本的に発作中のみの内服です。症状が改善すれば速やかに中止することになります。 尿酸値を下げる薬は痛風発作中には使用しません。 

痛風発作の再発を予防するために、症状が改善後に尿酸値を下げる治療を行います。
痛風発作が起こりそうな際(予兆時)は、予防的にコルヒチンを内服する場合があります。

「高尿酸血症」の治療

高尿酸血症の治療は大きく生活指導と薬物治療になります。
過去に痛風発作を起こされている方は、生活習慣の改善だけでは痛風を予防することは困難なため、尿酸値を下げる薬を内服します。およそ6.0mg/dl以下を目標とします。
痛風発作を起こした事がない「無症候性高尿酸血症」に対する治療は明確には定まっていないのが現状ですが、日本のガイドラインでは尿酸値や合併症の有無に応じて概ね以下の方針が記されています。

高血圧・糖尿病・脂質異常症・メタボリックシンドロームといった合併症を持つ方は、まずは合併症の治療を優先することが重要です。
合併症の治療によって尿酸値が低下することがあります。それでも依然として尿酸値が高い場合は薬物治療を検討します。

生活習慣の改善について

痛風やその他様々な病気と関連している高尿酸血症ですが、生活習慣の改善は非常に大切です。
まずは肥満がある方は肥満の改善が大切です。肥満の解消は、高尿酸血症のみならず、生活習慣病すべてにおいて重要です。適正なエネルギー摂取と運動習慣を心がけましょう。

食事に関しては主に高プリン食やアルコールが重要です。
プリン体の1日の摂取量は400mg程度が目安です。下の表を参考いただければ幸いです。

近年では、尿酸値を低下させる食生活スタイルが提案されています。果物・野菜・ナッツ・低脂肪乳製品・穀物・豆類を多く摂り、甘味飲料や肉類の摂取を減らした食事で、「DASH食」と呼ばれます。イタリアやスペイン、ギリシャといった地中海沿岸諸国の伝統的な食事がDASH食に近いと考えられています。

アルコールの中ではビールが、痛風リスクが最も高く、蒸留酒やワインでは比較的リスクが低いと言われています。
アルコール摂取量の目安ですが、日本酒1合、ビール350~500ml、ウイスキー60ml、ワイン148mlになります。この範囲内であっても、継続的な飲酒は脂肪肝を含め他の疾患の原因にもなるため、適度に休肝日を設けましょう。

運動に関しては、脈が少し早くなる程度の有酸素運動を1日30分以上行うことを心がけましょう。痛風患者さんにとっては強度の強いレジスタンス運動を行うと尿酸値が上昇しやすいと考えられています。ご自宅でできる椅子を使ったスクワットやひざをついた腕立て伏せ、プールでの歩行といった低強度がお勧めです。
疾患によっては急激な運動がかえって身体に負担になることもあるため、運動内容に関しては担当の医師とよく相談しましょう

 

薬物治療について

尿酸値を下げる薬には、体内での尿酸生成を抑制するタイプと、体外への尿酸排泄を促進するタイプの二つに分けられます。

・尿酸生成抑制薬:尿酸を生成するときに必要な酵素であるキサンチン酸化還元酵素の働きを阻害する薬です。

  • アロプリノール
  • フェブリク(フェブキソスタット)
  • ウリアデック(トピロキソスタット) 等

・尿酸排泄促進薬:尿酸トランスポーター1(URAT1)阻害薬、有機酸トランスポーター阻害薬などがあり、尿への尿酸排出を促します。

  • ベネシッド(プロベネシド)
  • ベンズブロマロン
  • ユリス(ドチヌラド) 等

高血圧治療薬のロサルタンや、高脂血症治療薬のフェノフィブラートにも同様の効果が確認されています。尿酸排泄促進型の薬剤では、尿中の尿酸値が高くなるため、尿路結石のリスクが上昇する可能性があります。
尿路結石予防のために十分な水分摂取と、尿をアルカリ性にする食品摂取(海藻類・野菜類(根菜類)・キノコ類)を心がけましょう。

最後に

「痛風」「高尿酸血症」について解説しました。これまでに「痛風」と診断された方は、再発を予防するために治療の継続が大切です。
これまでに痛風発作のない「無症候性高尿酸血症」の方でも、内服治療が必要であったり、他の病気の治療が必要なことがあります。ご自身で判断はせず、かかりつけの医師にご相談下さい。

平野区のやまおか内科クリニックでは「痛風」「高尿酸血症」の治療にも取り組みます。お気軽にご相談ください。

参考文献)
日本痛風・尿酸核酸学会編:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン2019
Choi HK, et al :Alcohol intake and risk of incident gout in men ;A prospective study .Lancet 363: 1277-1281.2004
Wang H ,et al :Effects of urate lowering therapy in hyperuricemia on slowing the progression of renal function; a meta-analysis. J Ren Nutr 23:389-396,2013

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