糖尿病における食事・運動療法について

日本人の糖尿病患者さんのうち95%以上は2型糖尿病です。2型糖尿病は「インスリンが分泌されにくい」「インスリンが効きにくい」といった体質と生活習慣がかみ合わないことで発症します。糖尿病治療ではインスリン分泌を促すと同時に、インスリンが効きやすく血糖値が上がりにくい状態に体を整える必要があります。薬物療法と並んで、食事療法・運動療法は糖尿病治療において非常に重要です。
ここではそんな食事療法・運動療法について解説します。

やっぱり減量は大切

減量の意義について

食事療法を中心とした生活介入によって、糖尿病患者さんでは明らかに体重が減少します。また体重減少に伴って、HbA1cの低下、LDL-コレステロールの低下、中性脂肪の低下、HDL-コレステロールの上昇、血圧の低下など、心血管イベント(脳卒中や心筋梗塞など)のリスク因子の改善が認められています。これらのリスク因子の変化は、体重の減少率に依存しており。5%の体重減少が必要であると言われています。

肥満を伴った2型糖尿病の場合は、内臓脂肪の影響でインスリンの効果が減弱します。これを「インスリン抵抗性」といいます。糖尿病治療ではインスリン抵抗性の改善が重要です。摂取エネルギーや食事内容を適正化し、運動療法を組み合わせることで、内臓脂肪の減少や・体重の減量を目指します。

目標体重について

肥満度を表す指標としてBMIを用います。BMIは[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で求められます。
肥満の判定基準は国によって異なっており、日本肥満学会の定めた基準では下記のように分類されます。

18.5未満が「低体重(やせ)」
18.5以上25未満が「普通体重」
25以上が「肥満」(肥満はその度合いによってさらに「肥満1」から「肥満4」に分類されます。)

BMIと死亡率との関係性を検討した論文で、死亡率が低いBMIはアジア人では20~25であると報告されています。ただ75歳以上の高齢者ではBMI25以上でも死亡率は上昇しなかったとも報告されています。

BMIは肥満基準に当てはまらない場合でも、脂質異常症や高血圧といった疾患を合併している場合は明らかに死亡率が高く、これらの疾患のない肥満患者では死亡率が上昇しなかったとする報告もあります。BMIや目標体重を一律に定めるのではなく、併存疾患や年齢等、個々の状況に応じた判断することが大切です。

肥満の方は目安としてはまず 5%の体重減少 を目指しましょう。

5%以上の体重減少によって、内臓のインスリン感受性が改善すると報告されており、米国糖尿病学会では、総エネルギーの適正化による肥満の是正が糖尿病予防と管理には最も重要としています。体重管理目標をまずは5%減、その後7から10%の減量を維持するのが理想的です。

食事療法について

糖尿病治療や減量において以下の3つが特に重要です。

  • 目標体重に合わせた摂取カロリーを設定する。
  • 糖質・脂質・タンパク質をバランスよく摂取する。
  • 3食を規則正しく、間食・夜食はできるだけ控える。

加えて以下を意識できればより効果的です。

  • 果物は適量ならOK、ジュースやお菓子は控える。
  • 極端な糖質制限は推奨されない。
  • 肉や乳製品だけでなく、魚や食物油も意識的に食べる。
  • 食事をするときは野菜から。

一日の摂取カロリーは?

目標とする体重や摂取カロリーは年齢やご病気、身体活動量によってさまざまです。
大まかな目安は、目標体重とエネルギー係数から計算します。

目標体重(BMI)の目安

65歳未満 [身長(m)]×22
65歳~74歳 [身長(m)]×22~25
75歳以上 [身長(m)]×22~25

身体活動レベルによるエネルギー係数(kcal/kg)

軽い労作(デスクワーク中心) 25~30
普通の労作
(デスクワーク中心だが、通勤や家事で体を動かす)
30~35
重い労作(力仕事や、活発な運動習慣がある) 35~

 

 総エネルギー摂取量の目安(kcal/日)=目標体重(kg)×エネルギー係数 

(例)40歳男性、身長が170cm、デスクワーク中心だが通勤で30分程度歩いている方の場合
目標体重 ➡ 1.7m×1.7m×22=63.6kg となります。
身体活動レベルを②普通の労作とすると、エネルギー係数は30~35になり
摂取カロリーの目安は 63.6㎏×30~35=1908~2226kcal と計算されます。

栄養バランスについて

現時点で、糖尿病の予防・管理のための望ましい栄養素比率に関する明確な見解はありません。
日本人の食事摂取基準2020年版では、成人の基準として炭水化物50~65%、たんぱく質13~20%、脂質20~30%が推奨されています。

炭水化物の摂取量

炭水化物は主に炭素と水素から成り立つ化合物で、大きく食物繊維・糖質に分けられます。
糖質は「単糖」で構成されており、構成されている数によって「単糖類」「二糖類」「少糖類」「多糖類」と分類されます。
イメージは下の図のようなものです。

身体の活動に必要なエネルギー源は主に「糖質」です。糖質1gあたりに4kcalのエネルギーが含まれています。
炭水化物摂取量を考える上では「糖質」の摂取量が重要です。食品に記載されている炭水化物には食物繊維も含まれるため、「糖質」を確認しましょう。

 

糖質を多く含む食材は以下の通りです。

ごはん、パン、麺類、イモ類、一部の野菜(レンコン、カボチャ、トウモロコシ)果物、砂糖など

糖質の中でも単糖類や二糖類は、消化吸収が早く、血糖値が上昇しやすいものが多いため注意が必要です。
その中で特に血糖値が上昇しやすいのが単糖類のぶどう糖になります。
砂糖は「ショ糖」といい、ぶどう糖と果糖からできています。二糖類のため消化が早く、ぶどう糖が半分を占めているため血糖が上昇しやすくなります。そのため、砂糖を使用したケーキやお菓子を摂取する場合は注意が必要です。
砂糖を含んだジュースやコーヒーは、消化の過程がないためさらに血糖値が上がりやすくなります。

炭水化物の摂取量と糖尿病の発症率に関しては統一された見解がないのが現状です。

炭水化物の制限によって、肥満やHbA1cの改善を認めた報告はありますが、総摂取カロリーが減少することによる側面が大きいと考えられます。しかし肥満を改善するにあたって、炭水化物摂取量を制限するいわゆる「糖質制限」の意義は結論が出ておらず注意が必要です。ガイドラインでも、 「総エネルギー量を制限せず、炭水化物のみを極端に制限することによって減量を図ることは勧められない」 、と記載されています。
糖質は血糖を上昇させ、過剰摂取は肥満の原因になりますが、糖質は人間が活動していく上で重要なエネルギー源でもあります。極端な糖質制限を行った場合、脂質やたんぱく質の過剰摂取に陥ることが多く、バランス良く適切な量を摂取することが大切です。

また果物に含まれる果糖に関しては、過剰摂取は中性脂肪や体重増加の原因となりますが、1日100g以内であれば、血糖や中性脂肪は改善し、体重増加に至る可能性は低いです。

ごはんの目安

小盛り1杯(100g) 約160kcal
中盛り1杯(150g) 約230kcal

果物の目安

バナナ1本100g、ミカン1個100g、キウイ1個、イチゴ5粒程度

たんぱく質の摂取量

腎臓の機能が低下した方は、たんぱく質の制限が必要な場合があります。
また総カロリーの20%を超える摂取に関しては、動脈硬化性疾患による死亡率の増加を来す可能性があり、長期的な安全性は確認されていません。13~20%の範囲での摂取が妥当と考えられます。

脂質の摂取量

脂質の摂取量と糖尿病発症リスクに関しては明らかではありません。
動物性脂質(飽和脂肪酸)の摂取は糖尿病発症リスクであり、多価不飽和脂肪酸(魚や植物油)が糖尿病発症リスクを低減すると報告されています。2011年のメタ解析では多価不飽和脂肪酸の摂取量増加がHbA1c低下をもたらすと報告されており、脂質に関しては摂取量だけでなく、摂取内容も重要です。肉や卵、乳製品だけではなく、魚や植物油を組み合わせるのが理想的です。

食事の摂り方について

規則的に3食を摂ることが、糖尿病予防には有効です。

朝食を抜くことや、夜遅くに食事を摂ることは、肥満を助長します。特に夜食に関しては血糖コントロールを悪化させ、心血管リスクを上昇させると報告されています。肥満のある方は、 摂取エネルギーだけでなく、規則正しく食事を摂る習慣も大切です。 

また食事中の食品の食べ方によって、食後の血糖上昇を抑えることもわかっています。
食物繊維を多く含む野菜を先に食べることで、血糖の上昇が穏やかになり、HbA1c低下や、体重減少にも効果があると報告されています。最初からお米や麺類といった炭水化物を食べるのではなく、先に野菜やたんぱく質を摂取すると効果的です。

以上が、糖尿病における、食事療法になります。

  • 目標体重に合わせた摂取カロリーを設定する。
  • 糖質・脂質・タンパク質をバランスよく摂取する。
  • 3食を規則正しく、間食・夜食はできるだけ控える。
  • 果物は適量ならOK、ジュースやお菓子は控える。
  • 極端な糖質制限は推奨されない。
  • 肉や乳製品だけでなく、魚や食物油も意識的に食べる。
  • 食事をするときは野菜から。

 

運動療法について

運動には全身の筋肉を使用した「有酸素運動」や筋肉に負荷をかける「レジスタンス運動」があります。それらを組み合わせた運動療法は、2型糖尿病の治療として重要です。

運動療法は血糖コントロールを改善させるだけでなく、心血管疾患のリスクである「肥満」「内臓脂肪」「インスリン抵抗性」「脂質異常症」「高血圧」「慢性炎症」も改善すると報告されています。さらには「うつ状態の改善」「認知機能障害の改善効果」も示されており、 適切な運動療法は糖尿病に治療上様々なメリットがあります。 

糖尿病ガイドラインでは

  • 週に150分以上(3日以上、活動がない日が2日連続しないように)の中等度~強度の有酸素運動を行うこと。
  • レジスタンス運動は、連続しない日程で週に2~3回行うこと。
  • 可能であれば有酸素運動とレジスタンス運動の療法を行うこと。

が推奨されています。

有酸素運動について

複数の論文の解析では、週150分以上運動した群の方が、それ未満の群よりもHbA1cの低下効果が大きいとされています。
運動によるインスリンの感受性改善は、運動後24~48時間持続すると考えられており、少なくとも2日に1回は運動を行うのが理想です。1回の運動量は少なくとも10分以上が望ましいとされています。

また食後に30分おきに3分程度の軽い有酸素運動を行うことで、食後血糖が改善する報告もあり、デスクワークや自宅で座っている場合は、食後に座っている時間を極力減らすことも効果的です。

はじめは軽い運動から始めて、運動に慣れてきたら強めの運動を取り入れると効果的です。

軽い運動(3~4メッツ):散歩、自転車、ゴルフ
中等度の運動(6メッツ):軽いジョギング、階段を上る
強度の運動(8メッツ):ランニング、水泳
(※メッツ:運動強度の目安、安静時を1メッツとする)

歩行の目安
1週間に150分の有酸素運動が15000歩の歩行と同等です。
およそ1日2000歩追加し、1日トータル8000歩(およそ5~6キロ程度)を目指しましょう。

レジスタンス運動

筋肉に負荷をかける運動です。
”連続しない日程”で、”週2~3日程度”、”上半身・下半身の筋肉を含んだ8~10種類のレジスタンス運動”を行います。
負荷としては10~15回程度繰り返すことのできる強度の負荷で、1~3セットが理想的です。

メニュー例)
腹筋、腕立て伏せ、スクワットなど。
可能であればダンベルやチューブを使ったトレーニングも有効です。

最後に

糖尿病治療や減量の上で大切な食事療法・運動療法について解説しました。
減量や食事療法・運動療法は糖尿病治療だけでなく、さまざまな疾患にとってメリットが大きい治療と言えます。上手くいくと、薬(内服やインスリン等)の使用量を減らしたり、中には薬を辞めることができる患者さんもおられます。
しかし糖尿病はあくまで、体質・遺伝的に血糖が上昇しやすい病気であるため、 減量や食事・運動療法で糖尿病が治癒するわけではありません 。加齢や生活習慣の変化で再度血糖値が上昇する可能性が高いため、定期的な血糖値・HbA1cのチェックが必要です。

一言で糖尿病患者さんといっても、他の疾患や、年齢・性別、体格、ライフスタイルは様々であり、それぞれの患者さんに合った食事療法・運動療法・薬物療法を組み立てることが大切です。現在糖尿病で治療されている方はもちろん、健診で血糖値を指摘された方や気になる症状がある方はお気軽にご相談ください。

参考文献)
日本糖尿病学会編:糖尿病診療ガイドライン2019

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