新型コロナウイルスの経口治療薬「モルヌピラビル」

大阪市平野区(JR平野駅)で2022年5月に内科クリニック開院予定の山岡です。
2022年10月1日、米国製薬会社であるメルク社から「新型コロナウイルス感染症の経口治療薬「モルヌピラビル」は、入院や死亡リスクを約50%軽減する」と発表されました。モルヌピラビルとその臨床試験について説明いたします。
(2021/12/29追記:12月24日に厚生労働省はモルヌピラビル(商品名「ラゲブリオ」)を治療薬として特例承認しました。)

「メルク社」はアメリカの世界的な製薬企業で、日本ではMSDの名としてビジネスを行っています。アレルギー薬のクラリチンや、AGA治療薬のプロペシア、抗がん剤のキイトルーダーなど、様々な薬を製造販売しています。
「モルヌピラビル」はもともと、インフルエンザ治療のために開発された、経口の抗ウイルス薬です。ウイルスは遺伝子情報であるRNAを複製して増殖します。モルヌピラビルは、RNAの複製を阻害することで、ウイルスの増殖を抑える薬です。

今回メルク社によって、新型コロナウイルス感染症に対する治療薬としての「モルヌピラビル」の有効性を確認するために、世界で第3相臨床試験が行われました。日本の施設を含む世界の170施設で臨床試験が行われ、中間報告では「入院や死亡のリスクを約50%減少させた」と発表されました。
これを受けて、臨床試験を監視する独立した委員会から、臨床試験の早期中止が勧告されています。(臨床試験では、薬が有効であるが故に臨床試験が中止されることがあり、「有効中止」といいます。明らかに効果がない場合は「無効中止」と言います。治療薬である「モルヌピラビル」が使用されず、「プラセボ(偽薬)」が投与されることは不利益であると判断されたわけです。)
(追記)最終報告が12月16日にNew England Journal of medicineに投稿されています。

臨床試験(第3相MOVE-OUT試験)の解析結果は以下のように報告されています。(原文はこちら)

  • 解析された患者は、2021年8月5日以前に第3相MOVE-OUT試験に最初に登録された775名。
  • 軽度から中等度の新型コロナウイルス感染症で、リスク因子を少なくとも1つ持っている患者が対象。
  • 「モルヌピラビル」を投与された患者のうち、無作為化後29日目までに入院または死亡したのは7.3%(28/385例)で、プラセボ(偽薬)投与を受けた患者の14.1%(53/377例)であった。「モルヌピラビル」は「プラセボ」と比較して、入院または死亡のリスクを約50%減少させた(p=0.001)。
  • 「モルヌピラビル」投与群では死亡者はいなかった一方、「プラセボ(偽薬)」投与群では9例であった。
  • ウイルスの遺伝子解析がされた患者では、ガンマ株・デルタ株・ミュー株すべてで有効性を示した。
  • 有害事象の発生率は「モルヌピラビル」投与群と「プラセボ」投与群で同等であった(30.4% vs 33%)。

まとめると、「モルヌピラビル」は 新型コロナウイルス感染症軽症・中等症患者の入院・死亡率を半分に抑え、安全性も確認された 、ということになります。この結果を踏まえ、メルク社は米FDAに対して緊急使用許可を申請するほか、日本の厚生労働省にも製造販売の承認を申請予定とのことです。また日本政府は早ければ年内に特例承認し、一定量を調達する方針で交渉に入ったと報道されています。

査読前のデータである点は注意が必要です。
抗体カクテル療法は点滴の薬であったのに対して、モルヌピラビルは経口治療薬です。自宅待機中の患者さんに対する治療のハードルが下がる可能性があります。ワクチン接種が進む中、このような治療薬が登場したことで、平穏な日常が一日でも早く戻ってくることが期待されます。

(追記)
11月4日イギリスの医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、モルヌピラビルを新型コロナウイルスの感染症COVID-19の経口治療薬として世界で初めて承認しました。治療対象はSARS-CoV-2診断が陽性で、重症化する危険因子を1つ以上有する成人の軽度から中等度のCOVID-19患者です。
臨床試験の結果と規制当局の承認または認可の可能性を見越して、メルク社はモルヌピラビルの生産を行っており、2021年末までに1,000万回分、2022年には少なくとも2,000万回分の治療薬を生産することを見込んでいるとのことです。(詳細)

(2021/12/29追記)
12月24日に厚生労働省はモルヌピラビル(商品名「ラゲブリオ」)を治療薬として特例承認しました。
主な投与対象は、重症化リスクを有する18歳以上の軽症~中等症Ⅰの患者です。1回800mgを1日2回、5日の投与になります。
催奇形性のリスクを考慮し、妊婦または妊娠の可能性がある方には投与禁忌です。(アメリカでは非推奨の位置付けです)
MSD社はオミクロン株に対しても、実験室での研究では従来の変異株と同様の有効性があると報告しています。
ファイザー社製の経口治療薬(パクスロビド)と比較すると臨床試験結果はやや見劣りする印象がありますが、既存の治療法と比較すると治療導入しやすいメリットはあります。第6波が懸念される中、感染拡大防止や医療体制の維持への貢献が期待されます。

文献)
Molnupiravir for Oral Treatment of Covid-19 in Nonhospitalized Patients

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