糖尿病は、高血圧や脂質異常症といった”生活習慣病”に含まれる、身近な病気の一つです。
糖尿病を放置すると、知らない間に動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中、腎臓病といった様々な病気の原因となります。糖尿病の概念から治療までわかりやすく解説します。
目次
糖尿病ってなに?~血糖値とインスリン~
血液中にはブドウ糖(糖分)が含まれており、私たちが活動するためのエネルギー源となっています。血液中のブドウ糖の濃度を血糖値と呼び、慢性的に血糖値が異常に高い状態を“糖尿病”と言います。血糖値が高くなりすぎると、尿中にも糖分が放出されるようになります。これが“糖尿病”の名前の由来です。
食事をすると腸から糖分が血液内に吸収され、血糖値が上昇します。
血液中に増えた血糖は、膵臓から放出されいる”インスリン”というホルモンで肝臓や筋肉などに取り込まれます。エネルギー源として蓄えられることで血糖値は低下します。
インスリンは血糖値に合わせて常に分泌されており、空腹時でも食後でも血糖は正常な範囲にコントロールされています。
なぜ血糖値が上がり、糖尿病になるの?
血糖を下げるホルモンはインスリンしかありません。インスリンを出す力(インスリン分泌能)が弱くなったり、インスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性)ことで、血糖値が下がりにくく(上がりやすく)なります。
糖尿病は大きく「1型糖尿病」と「2型糖尿病」に分類されます。
「1型糖尿病」はインスリンを分泌する細胞「膵β細胞」が破壊され、インスリンが分泌できなくなった状態です。
自分自身の免疫反応や、ウィルス感染などが原因で10~20代の比較的若い人で発症することが特徴ですが、中年~高齢で発症する方もおられます。
「2型糖尿病」は、もともと遺伝的・体質的に糖尿病になり易い方が、運動不足や食生活といったいわゆる”生活習慣”と”体質”がうまくかみ合わずに発症する糖尿病です。
徐々に進行することが多く、成人の健康診断で指摘されるケースのほとんどが「2型糖尿病」です。日本人の糖尿病患者のうち、約95%は2型糖尿病と言われています。「生活習慣病」と呼ばれることが多いですが、遺伝的・体質的な要因が大きく、同じ生活習慣でも糖尿病を発症する方もいれば、発症しない方もおられます。「糖尿病=生活習慣病≒不摂生」と認識されていることが多く、必ずしも不摂生が原因ではないことは強調したいポイントです。
糖尿病が急に悪化したり、出現した場合に注意が必要なのが「すい臓がん」の存在です。
インスリンを分泌する膵臓に癌が発生し、インスリンの分泌能力が低下することで、糖尿病が出現・悪化する場合があります。糖尿病と初めて診断された場合や急激に悪化した場合には膵臓の検査も重要です。
糖尿病にはどんな症状が?
糖尿病の初期は症状がないことが多く、初期の段階では健診や血液検査で偶然見つかるケースが大半です。
糖尿病が進行してくると以下のような症状が出現します。
☑疲れやすい
☑喉がよく乾く
☑おしっこに頻繁に行くようになった
☑手足の指先がしびれる
☑体重が急激に減ってきた
☑勃起不全になった
☑眼が見えにくくなった
これらの症状は糖尿病だけで起こるわけではありませんが、糖尿病の可能性があるため内科医師に相談しましょう。
糖尿病を放置すると?
糖尿病を放置して高血糖の状態が続くと、血管や神経などに障害が起き、全身の様々な臓器にトラブルが起こります。これを糖尿病の「合併症」といいます。
「糖尿病治療の目標・目的は合併症を予防することです。」 糖尿病三大合併症として「糖尿病神経障害」「糖尿病腎症」「糖尿病網膜症」があり、以下のような状態です。
「糖尿病神経障害」指先の神経が障害されることで、痛みを感じにくくなったり、しびれが出現します。 |
「糖尿病腎症」腎臓は体の老廃物や水分を対外に排出する臓器です。腎臓の機能が低下すると、むくみやすくなったり、疲労感が強くなったりします。 |
「糖尿病網膜症」目の網膜にダメージが蓄積することで物が見えにくくなり、最悪の場合失明することもあります。 |
これらの三大合併症の他にも「大血管障害」と呼ばれる合併症が存在します。
「脳梗塞」「心筋梗塞」「末梢動脈疾患」 の3つです。脳梗塞によって麻痺が残ってしまったり、心筋梗塞は直ちに命に関わるケースもあります。
末梢動脈疾患はなじみが薄いかもしれません。足の血管が硬く細くなることで足の血流が低下し、その結果痛みが出たり、足が腐る(壊死)ことがあります。足の壊死が進行すると切断が必要になります。(下肢閉塞性動脈硬化症) 糖尿病で足を切断した、と言われるのはこのケースです。
このように、糖尿病を放置すると様々な合併症を引き起こし、生活の質を大きく低下させるだけでなく、最悪の場合は命を落とす可能性があります。早期発見に努め、適切に治療をする必要があります。
糖尿病の診断
糖尿病の検査で欠かせないのが「血糖値」と「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」です。(医療従事者は「エーワンシー」と呼ぶことが多いです。)
血糖値は検査時点での血中の糖分(グルコース)の数値、HbA1cは過去2ヶ月の血糖状態を反映した指標です。
糖“尿”病の名前の通り、尿検査で糖分が指摘されることがり、尿に含まれる糖分を尿糖と言います。しかし、血糖値が著しく上昇しないと尿糖が検出されません。尿糖が検出されなくても、糖尿病が否定されるわけではないのです。実際、糖尿病の診断基準には尿糖は含まれていません。
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初回検査時に
1~3のいずれかと4を認める
1~3のいずれかがあり、糖尿病による症状or糖尿病網膜症がある
この場合は糖尿病の診断になります。
初回検査で診断に至らなかった場合は後日再検査を行います。
初回検査と2回目の検査を合わせて、1~3のいずれか+4を満たす場合、2回とも1~3を満たす場合は糖尿病の診断になります。
HbA1cが6.5を超えいてるだけでは糖尿病の診断にはなりませんが、定期的な血糖の確認が必要です。
糖尿病の治療法
1型糖尿病・2型糖尿病共に、「食事療法」・「運動療法」・「薬物療法」が治療の中心となります。詳しくはこちらのページをご覧ください。
・食事療法:「適切なエネルギー量」、「栄養素をバランス良く摂る」、「規則正しく食事を摂る」ことが重要です。
・運動療法:適度な運動は、血糖値を下げるだけでなく、インスリンの効果が高くなり血糖値が上がりにくい体になります。運動は糖尿病だけでなく、高血圧や脂質異常症(高脂血症)にも効果的です。全身の筋肉を使う「有酸素運動」と、筋肉に負荷をかける「レジスタンス運動」を組み合わせることがより効果的です。血糖が非常に高い方や、合併症のある方は運動が危険な可能性もあるため、担当の医師とよく相談しましょう。
・薬物療法:内服薬により膵臓を刺激してインスリン分泌を促進したり、インスリンの効き目の改善を期待します。膵臓が弱ってしまい、膵臓からインスリンが分泌されない(枯渇している)場合はインスリン注射(皮下注射)を併用することもあります。一時的にインスリン注射が必要となっても、生活習慣の改善によりインスリン注射を止められる場合があります。
「薬やインスリンを始めるとずっと続ける必要があるの?」
糖尿病と診断された方からよくいただく質問です。2型糖尿病の場合は運動療法や食事療法により血糖が正常化し、薬を減量したりインスリンを中止できる方もおられます。
しかし糖尿病は体質的な要素も大きく、数値上血糖値は正常化していても、インスリンを分泌する能力が改善することはありません。加齢や、生活習慣の変化によって再度血糖が悪化する可能性もあるため、定期的な通院、検査は必要です。
糖尿病で使用する薬について
内服薬・注射薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)・インスリン(注射)があります。
内服薬
ビグアナイド薬:古くから使用されているお薬。インスリン抵抗性を改善する。薬価が安いのがメリット。容量を増やすほど効果が高くなる。
DPP4阻害薬:血糖上昇に応じてインスリン分泌を促す。低血糖リスクが少ない。
SGLT2阻害薬:糖を尿から排泄する薬。腎臓や心臓を保護する効果が期待できる。
スルホニル尿素薬:古くから使用されているお薬。インスリン分泌が強い。低血糖に注意。
グリニド薬:食前に内服して食後インスリン分泌を促す。食前内服が△。
αグルコシダーゼ阻害薬:腸からの糖の吸収を抑制する。食前内服が△。
GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬
GLP-1受容体作動薬(内服・注射薬)
GIP/GLP-1受容体作動薬
インスリン注射
最後に
糖尿病は、高血圧や脂質異常症と並んで、一般的な病気のひとつです。
合併症を予防し、健康に長生きするためには、早期発見に努め、適切な治療を始めることが大切です。
健康診断で糖尿病の疑いが指摘された方や、気になる症状がある方は、すぐに内科医師に相談しましょう。糖尿病をすでに治療されている方は、引き続き担当の医師と一緒に、治療に取り組みましょう。
(参考文献)
日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2018-2019(文光堂)
日本糖尿病学会編:糖尿病診療ガイドライン2019