糖尿病治療中に体調を崩したら?シックデイの対応

糖尿病の治療中に、感染症などによる発熱・下痢・嘔吐や食思不振のせいで食事がとれない状態のことを「シックデイ」と呼びます。普段糖尿病のコントロールが良好な方でも、シックデイには血糖が不安定になります。
シックデイの過ごし方や薬の扱いについて解説します。

シックデイで血糖が不安定になるメカニズム


体調不良によるストレスで、“カテコールアミン”や“コルチゾール”といった血糖値を上げるホルモンが分泌されます。(抗インスリンホルモン)
これらのホルモンの影響で、食事が十分にとれていなくても血糖が上昇しやすくなります。

血糖が上がることで脱水になりやすくなり、脱水になるとさら血糖が上昇するという悪循環に陥ります。病状が悪化すると、“高浸透圧高血糖症候群(HHS)”や”糖尿病ケトアシドーシス(DKA)“という命に関わる病状になる恐れがあるため注意が必要です。

また糖尿病の薬の中には、下痢や腹痛といったお腹の症状を悪化させるものや、利尿作用により脱水になりやすい薬があります。
食事がとれていない状況で普段通り薬を服用すると低血糖を起こす可能性もあるため対策が必要です。

シックデイの対応


体調が悪い時の対策は以下の通りです。

☑ 安静にすること
☑ 水分摂取はしっかりと
☑ 最低限の糖質は接種する
☑ 食事量が減っているときは主治医に薬の内服について確認する。

食事・水分摂取について

食欲が落ちていても、できるだけ糖質(炭水化物)の摂取を心掛けてください。
口当たりの良い、消化吸収の良いものを摂取しましょう。いつも通りの食事が困難な場合は、お粥やうどん、雑炊、果物、アイスクリームなどを活用下さい。一度に食べられない場合は小分けに摂取して問題ありません。糖質の摂取の目安はおよそ100~200gです。

とにかく全く食事がとれない状況を避けることが大切です。

☆食事に含まれる糖質の目安☆
白米(150g茶碗に軽く一杯):55g(252kcal)
おかゆ(200g茶碗一杯):31g(140kcal)
うどん1玉(220g):46g(231kcal)
イチゴ(5個・75g):5.3g
バナナ(1本・100g):21.4g
リンゴ(1個:250g):35.3g
アイス(スーパーカップバニラ1個・200ml):35.3g

脱水になりやすい為、意識的に水分を摂りましょう。目安は1日1000~1500mlです。
食欲がなければポカリスエットやジュースなど、糖質を含む水分を摂取しても問題ありまん。
高血糖になりやすいため一度に多量に接種しないように注意が必要です。塩分(ミネラル)の摂取も必要です。経口補水液・お味噌汁や漬物・梅干しなども活用下さい。

☆飲料に含まれる糖質の目安☆
ポカリスエット(1本・500ml):31g
アクエリアス(1本・500ml):23.5g
経口補水液(OS-1)(1本・500ml):9g

 

なぜ糖質摂取が必要なのか?

ヒトが活動するためにはエネルギーが必要です。
身体の中でエネルギーを効率よく産生する原動力が「糖の代謝」です。

普段体内では、血中の糖質をインスリンによって細胞内に取り込み燃焼することでエネルギーに変換します。
糖質不足やインスリン不足になると、糖質からエネルギーを作ることが難しくなり、糖質の代わりに脂肪を代謝するようになります。脂肪を代謝する過程で「ケトン体」という物質されます。「ケトン体」が蓄積すると血液が酸性に傾き「ケトアシドーシス」という状態となり、吐き気や食欲低下、重症化すると意識レベルの低下を引き落とします。ケトアシドーシスを防ぐために、食欲が落ちても最低限の糖質摂取が重要になります。

「シックデイ」での糖尿病治療薬の対応


普段どんな種類のお薬を飲んでいるかご存じでしょうか?
実は治療で使用している薬の種類で対応が異なります。
まずご自身が糖尿病に対してどんなお薬を処方されているか確認してください。

※以下の対応はあくまで食事量・水分摂取が低下している場合や、下痢・嘔吐の消化器症状が強い場合の対応です。食事や水分がしっかりとれており、消化器症状が無い場合は普段通り内服・注射いただいて大丈夫です。

DPP4阻害薬(エクア・ジャヌビア・トラゼンタ・テネリア等)

インスリン分泌を促進し血糖を下げる薬。低血糖リスクが少ないのが特徴です。
副作用が少なく、ある程度食事がとれていれば中止の必要性は低いです。

主食2/3以上:通常量
主食1/3~2/3:中止を検討
主食1/3以下:中止を検討

SU薬(アマリール(グリメピリド)・グリミクロン(グリクラジド))

膵臓からインスリン分泌を促す薬。食事量が低下すると低血糖リスクがあるため食事量に合わせて減量・中止が必要です。

主食2/3以上:通常
主食1/3~2/3:半分
主食1/3以下:中止

グリニド薬(シュアポスト(レパグリニド)等)

膵臓からインスリン分泌を促す薬。食事量が低下すると低血糖リスクがあるため食事量に合わせて減量・中止が必要です。

主食2/3以上:通常
主食1/3~2/3:半分
主食1/3以下:中止

ビグアナイド薬(メトグルコ(メトホルミン))

インスリン抵抗性を改善する薬。シックデイは中止が必要です。嘔吐や下痢症状がある場合は速やかに中止しましょう。

α-GI薬(ベイスン(ボグリボース)、セイブル(ミグリトール)、グルコバイ(アカルボース))

小腸での糖の分解・吸収を抑える薬。
消化器症状の副作用があるため中止が必要です。

SGLT2阻害薬(フォシーガ、カナグル、ジャディアンス、スーグラ等)

腎臓から糖の排出させる薬。脱水を悪化させる可能性があるため中止が必要です。

GLP-1受容体作動薬(オゼンピック・リベルサス・トルリシティ・マンジャロ等)

GLP-1受容体に作用してインスリンの分泌を促すことにより血糖を下げる薬
最近使用されている患者さんも多いかと思います。
食欲を低下させる等、消化器系の作用があるため中止が必要です。

インスリンを使用している場合

持効型インスリン
1日1回注射で基礎インスリンを補充する目的で使用されます。
シックデイでも自己判断で中止はせず、1日1回の注射は継続してください。

即効型インスリン・混合型(速効・持効型)インスリン
食事量に応じて単位数を調整する必要があります。かかりつけ医に相談下さい。

インスリンを使用している場合は自己血糖測定機を使用されているかと思います。
食事量が不安定な場合はこまめに(可能であれば1日3回毎食前)血糖測定してください。

受診や相談のタイミング


不安があれば、かかりつけ医に連絡・受診しましょう。

救急車を呼ぶタイミング

☑ 意識がぼーっとしている場合(意思疎通が取れない)
☑ 血圧が測れない場合

はすぐに救急車を呼びましょう。

医療機関を受診するタイミング
☑ 24時間以上食事がほとんどとれていない場合
☑ 高熱が持続している場合
☑ 嘔吐下痢が続いている
☑ 血糖値300以上が続いている。

このような状態の場合はすぐに医療機関を受診下さい。入院が必要と判断した場合は入院先を手配します。
状態が落ち着いている場合はクリニックでの点滴や、投薬内容の調整・指導をさせていただきます。

文献)
糖尿病学会編:糖尿病診療ガイドライン2019

やまおか内科クリニック
院長:山岡 祥
日本内科学会認定内科医
日本糖尿病協会 登録医
日本消化器病学会 専門医
日本消化器内視鏡学会 専門医

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