「みぞおちがキリキリ痛む」
「みぞおちが焼ける感じがする」
「食後にお腹が張る」
「すぐに満腹になり食事が進まない」
このような症状で困らせている方は多いのではないでしょうか。
これらの症状は 「機能性ディスペプシア」 の可能性があります。
ここでは機能性ディスペプシアについて、診断と治療法について解説します。
目次
機能性ディスペプシアとは
「はっきりした原因が見当たらないのに、おなかの不快なつらい症状が慢性的に続く状態」です。
日本消化器病学会のガイドラインでは「症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれのなどの心窩部痛を中心とする腹部症状を呈する疾患」と定義されています。
診断基準
みぞおちの痛みや胃もたれといった不快な症状が持続しており、ほかに明らかな原因がなければ機能性ディスペプシアと診断します。
世界的にはRome基準という診断基準が広く用いられています。
RomeⅣ基準ではお腹の症状を
- 「心窩部痛」「心窩部灼熱官」といった痛みが中心のもの
- 「食後の上腹部膨満感」「食事早期の満腹感」といった食後の症状が中心のもの
に分類しており、
- 痛みが中心の場合 → 週に1日以上症状がある。
- 食後の症状が中心の場合 → 週に3日以上症状があり、慢性的に持続(半年以上前に自覚し、3ヶ月以上続いている)している。
このような場合に機能性ディスペプシアと診断されます。
しかし実際には、お腹の症状は様々であることや、持続期間や程度に個人差があることから、日本のガイドラインでは 具体的な症状や期間は問わない とされています。
有病率
機能性ディスペプシアに悩まれている方は珍しくなく、健診受診者の11~17%の方、またお腹の症状を訴え受診された患者さんのうち45~53%の方が機能性ディスペプシアであったと報告されています。これまで「慢性胃炎」と診断されてきた患者の多くはこの機能性ディスペプシアだと考えられます。
なぜ機能性ディスペプシアになるのか?
機能性ディスペプシアには様々な因子が関連しています。
大きくは「生理的要因」・「心理社会的因子」・「生活習慣」・「遺伝要因」に分けられます。
生理的要因
⇒「胃・十二指腸運動機能異常」「内臓知覚過敏」「胃酸分泌」「感染性胃腸炎の既往」など
心理社会的因子
⇒「幼少期の体験」「生活上のストレス」「不安」「うつ」など
生活習慣
⇒「運動不足」「睡眠不足」「高脂肪食」「食習慣の乱れ」など
これらの複数の原因が絡み合って、不快な症状が出現します。
診断に必要な検査は?
おなかの不快感がある場合、症状の原因となるようなはっきりした病気がないかどうかを確認することが大切です。
以下のような症状がある場合は注意が必要です。
- 高齢者で、新たに症状が出てきた。
- 体重が減ってきた
- 嘔吐を繰り返す
- 出血をしている(嘔吐に血が混じる、便に血が混じる)
- 飲み込み辛い
- お腹にこぶを触れる
- 発熱がある
- 血の繋がった家族に食道癌や胃癌の方がいる
これらの症状がある場合、以下の病気が隠れている可能性があり注意が必要です。
- がん(食道癌、胃癌、膵臓癌)
- 逆流性食道炎
- 胃・十二指腸潰瘍
- 慢性胆嚢炎・慢性膵炎
- 糖尿病・甲状腺疾患などの内分泌疾患
- 薬剤性疾患
診察の結果、このような疾患が疑われる場合は内視鏡検査や腹部超音波、血液検査等の精密検査が必要になります。
機能性ディスペプシアとして治療を開始しても症状が改善しない場合もこれらの検査を考慮します。
治療法について
機能性ディスペプシアと診断された場合、どのような治療があるのでしょうか?
治療の目的は、おなかの不快な症状を取り除くことになります。
機能性ディスペプシアには様々な要因が関わっており、問診や診察の中で「生理的要因」・「心理社会的因子」・「生活習慣」にアプローチしていきます。
治療を進める上で 患者さんと主治医とが、良好な関係性を築くことが重要 です。
患者―医師の良好な関係性は、患者さんの満足度、治療遵守、治療効果を改善するという報告があります。
治療法は大きく3つに分けられます。
- 生活習慣・食事習慣の改善
- 薬物治療
- 心療内科での治療
生活習慣・食事習慣
機能性ディスペプシアで悩まれている患者さんは、「睡眠不足」「食事の時間が不規則、野菜の摂取不足といった食生活の乱れ」「運動不足」があると報告されています。
治療として生活習慣・食事習慣改善の有効性を検討した報告は少なく、明確なエビデンスが不足しているのが現状です。
これまでの報告や臨床経験を加味し、「満腹を避ける」「脂肪の多い食事を避ける」「禁煙」「飲酒・コーヒーを控えめにする」といったアドバイスをさせて頂きます。
薬物治療
機能性ディスペプシアに効果がある薬剤は
- 胃の粘膜を保護する薬(ランソプラゾール、ファモチジン、ボノプラザンなど)
- 胃や腸の運動機能を改善する薬(アコチアミド、メトクロプラミド、モサプリドなど)
- 漢方薬(六君子湯、半夏厚朴湯など)
- 不安を改善する薬(一部の抗うつ薬、抗不安薬)
があります。
「みぞおちの痛み」が中心の方は「胃の粘膜を保護する薬」
「食後の不快感」が中心のかたは「消化管の運動を改善する薬」
が効果的とする報告もありますが、一定の見解は得られていません。
これらの薬を併用したり、切り替えたりして、症状にあった薬をみつけることが大切です。
一部の薬剤は、胃カメラを受けないと処方ができないため注意が必要です。
心療内科での治療
「不安」や「うつ」といった症状が強い場合は心療内科での治療を並行する場合があります。
最後に
機能性ディスペプシアは死亡率を上昇させるような「危険な病気」ではありませんが、生活の質を低下させます。
年齢や性別、ライフスタイルなどを総合的に判断し、個々の患者さんにあった検査や治療法を一緒に考えていくことが大切です。
おなかの症状でお悩みの方は平野区の「やまおか内科クリニック」にお気軽にご相談下さい。
参考)
日本消化器病学会編:機能性ディスペプシア診療ガイドライン2021
Lukas Van Oudenhove et al. Gastroenterology 2016; 150: 1355-1367
Koloski NA et al. United European Gastroenterol j 2020; 8: 577