2021年11月05日米ファイザー社は、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス薬である「パクスロビドPAXLOVID(PF-07321332;リトナビル)」は、新型コロナウイルス感染症の入院または死亡のリスクを89%減少させると報告しました。臨床試験の結果やパクスロビドについて解説します。
臨床試験について
重症化のリスクが高い非入院の成人COVID-19患者を対象とした、第2/3相臨床試験「EPIC-HR(Evaluation of Protease Inhibition for COVID-19 in High-Risk Patients)」無作為化二重盲検試験が行われました。
臨床試験の中間解析結果は以下の通りです。
- 2021年9月29日までに登録された1219名の成人患者のデータが評価された。
- 対象患者は軽度から中等度の症状を呈しており、COVID-19による重症化のリスクを高める特徴や基礎疾患を少なくとも1つ持っていることが求められた。各患者は、パクスロビッドまたはプラセボを12時間ごとに5日間経口投与するよう無作為に(1:1)割り付けられた。
- 症状発現後3日以内に治療を受けた患者において、 COVID-19に起因する入院またはあらゆる原因による死亡のリスクが、プラセボと比較して89%減少した 。(主要評価項目)
- パクスロビッドを投与された患者のうち、無作為化後28日目までに入院した患者は0.8%(3/389人が入院し、死亡はなし)であったのに対し、プラセボを投与された患者のうち、入院または死亡した患者は7.0%(27/385人が入院し、7人がその後死亡)であった。これらの結果は統計的有意性が高かった(p<0.0001)。
- 症状発現後5日以内に治療を受けた患者においてもCOVID-19に関連した入院または死亡は減少が認められた。パクスロビッドの投与を受けた患者のうち、無作為化後28日目までに入院したのは1.0%(入院したのは6/607人、死亡はなし)であったのに対し、プラセボの投与を受けた患者では6.7%(入院したのは41/612人、その後の死亡は10人)であり、高い統計的有意性が認められた(p<0.0001)。
- 28日間の全試験集団において、パクスロビドを投与された患者では死亡例がなかったのに対し、プラセボを投与された患者では10例(1.6%)の死亡例が報告された。
- 治療開始時の有害事象は、パクスロビド™(19%)とプラセボ(21%)で同等であり、そのほとんどが軽度のものであった。
極めて高い有効性と安全性が示された結果となっています。この臨床試験結果はまだ正式発表されておらず、査読は受けていませんが、独立したデータモニタリング委員会の勧告および米国食品医薬品局(FDA)との協議により、ファイザー社は今回の結果で示された有効性を理由に、本試験への追加登録を中止したとのことです。
パクスロビドについて
パクスロビドは、新しい抗ウイルス薬(PF-07321332)と、既存の抗HIV薬であるリトナビルとを組み合わせたものです。「PF-07321332」はウイルスの増殖に必要な酵素を阻害する「プロテアーゼ阻害剤」として設計された新規の経口抗ウイルス剤です。低用量のリトナビルを併用することで、体内でより高い濃度で長時間活性を維持し、ウイルスに対抗することができます。先日イギリスで承認されたメルク社のモヌルピラビルとは違う機序の抗ウイルス薬となります。
パクスロビドは、既知のコロナウイルスだけでなく、懸念されている変異型のコロナウイルスに対しても、実験室内で強力な抗ウイルス活性を示しており、 複数のタイプのコロナウイルス感染症の治療薬として有効な可能性が示唆されています 。
ワクチン接種者を含んだ重症化リスクのない新型コロナ患者を対象とした臨床研究や家庭内での濃厚接触者を対象とした臨床研究も行われています。良好な成績が得られ、承認・認可が得られれば、成人の病気の重症化、入院、死亡を減らし、暴露後の感染確率を下げるための家庭用治療薬として、より広く処方される可能性があります。
日本では12月からワクチンの3回目接種が開始される予定です。
先日イギリスで承認されたモヌルピラビルや、今回のパクスロビドの登場により新型コロナウイルスに対する治療が大きく進む可能性があります。
ワクチン接種と治療薬により、この未曽有の感染症が1日でも早く終息することが期待されます。