2024年12月27日に新しい肥満治療薬 「ゼップバウンド」 の製造販売が承認されました。
保険診療で使用可能な肥満治療薬としては昨年のウゴービに引き続き2つ目となります。
ゼップバウンドについて簡単にまとめると以下の通りです。
▷糖尿病治療薬「マンジャロ」と同成分である。
▷約1年で体重の15~20%減少が期待される。
▷クリニックでの処方は実質不可能。
そんな新薬ゼップバウンドについて解説いたします。
目次
糖尿病治療薬マンジャロと同成分
昨今糖尿病治療の進歩は目まぐるしく、糖尿病の治療効果のみならず減量や肥満改善効果を持つ治療薬が次々に登場しています。新薬ゼップバウンドは 「チルゼパチド」 という有効成分を含んだ肥満治療薬です。チルゼパチドは糖尿病の治療薬「マンジャロ」として使用されている薬剤ですが、体重減少効果が高いことから、臨床試験を経て新たに肥満治療薬として承認されました。
チルゼパチドは GLP-1 と GIP という2つのホルモンに働きかけることで、食欲を抑えたり、体の代謝を改善したりする作用があります。その結果、無理なく食事量を減らし、脂肪を燃焼しやすくしてくれるのです。
約1年で体重の15~20%減少が期待される。
気になる減量効果ですが、ゼップバウンドの臨床試験では、「約1年で体重の15~20%が減少した」という結果が報告されています。例えば、体重100kgの方なら、約15~20kgの減量 が期待できるということです。これは従来の肥満治療薬と比べても非常に高い効果を示しています。日本人を対象とした臨床試験の結果は以下の通りです。
Surmount-J試験
ゼップバウンドの効果を確かめるために、日本人を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験「Surmount-J試験」 が実施されました。この試験では、BMIが27以上で、肥満関連の疾患を持つ方を対象に、ゼップバウンドの効果と安全性を評価しています。
【目的】ゼップバウンド10mgもしくは15mgを週1回投与した時の体重減少効果を評価する。
【対象】日本人でBMI27以上35未満で2つ以上の肥満関連疾患を有する患者、もしくはBMI35以上で1つ以上の肥満関連疾患を有する患者
※肥満関連疾患=耐糖能異常、脂質異常症、非アルコール性脂肪性肝疾患
【方法】ゼップバウンド10mg、15mg、プラセボ群に無作為に割り当て、72週間投与した。
【主要評価項目】
ー72週時点での変化率
ー72週時点で体重が5%以上減少した人の割合
【結果】
▷72週時点での体重変化率
プラセボ群 | -1.7% |
ゼップバウンド10mg群 | -17.8% |
ゼップバウンド15mg群 | -22.7% |
プラセボに比較し有意に体重が減少しています。グラフで見ると投与開始半年で-15%ほどであり、驚異的な体重減少効果と言えます。
▶体重が5%以上減少した人の割合
約95%の人が5%以上の体重減少を達成しています。
またゼップバウンド10mgで約40%、15mgで約65%の人が20%以上の体重減少を達成しています。また副次的な結果として血圧の低下やQOLの改善も期待できる結果も得られています。
【有害事象】
便秘や下痢、食欲減退といった消化器症状がプラセボより多い結果となっていますが、作用機序から考えると妥当な結果と言えるでしょう。
ゼップバウンドの適応
肥満症
ただし高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。
・BMIが27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
・BMIが35以上
適応に関する注意事項:あらかじめ肥満症治療の基本である食事・運動療法を行っても十分に効果が得られない場合で薬物利用の対象として適切と判断された患者を対象とする。
マンジャロと何が違うの?
マンジャロは糖尿病にしか適応が通っておらず、保険診療において肥満治療目的では使用できません。またマンジャロは2.5mgからスタートして5mgが最低容量ですが、ゼップバウンドは2.5mgから開始して10mgまで増量する必要があります。症状に応じて適宜増減できますので5mg~15mgの間で使用可能です。要はマンジャロをより高容量で使用するのと同じですね。
ウゴービとの比較
昨年肥満治療薬として一足先に承認された「ウゴービ」をご存じの方も多いでしょう。ウゴービの有効成分は「セマグルチド」と呼ばれ、糖尿病治療薬「オゼンピック」と同じ成分です。「ウゴービ」も「オゼンピック」を高容量で使用する薬剤ですのでマンジャロとオゼンピックの関係と同じと言えます。
マンジャロとオゼンピックを直接比較した臨床試験はありませんが、メタアナリシスを参考にすると効果はゼップバウンド(マンジャロ)に軍配があがるのかもしれません。(記事:マンジャロ・オゼンピック・リベルサス~日本人での効果比較~)
どこで処方してもらえるの?
残存ながらゼップバウンドはクリニックでは処方はできません。
大学病院や総合病院でしか処方できないため、気軽に使用できる薬剤ではありません。
最期に
肥満治療薬の新薬ゼップバウンドについて解説いたしました。減量効果は間違いないですが、処方ハードルがが高いのが難点ですね。肥満治療は肥満のみならず様々な合併症を予防するうえで非常に重要であり、今後も新薬開発から目が離せません。
当院では糖尿病がない方で肥満でお困りの方の肥満治療にも積極的に取り組んでいます。ご興味がある方はお気軽にご相談下さい。(※オンライン診療は実施しておりません)
→肥満でお困りの方へ
文献)
「Surmount-J試験」イーライリリー・田辺三菱製薬資料より抜粋
Adriaenssens AE, et al: Cell Metab. 2018
Costa A, et al: Mol Metab. 2022; 56