新型コロナワクチンについて

2019年から世界で流行している新型コロナウイルス感染症ですが、2020年にPfizer社製を初めとした、複数のワクチンが承認されました。2021年2月から医療従事者、5月から高齢者に向けたワクチン接種が開始されました。ここでは、新型コロナウイルスワクチンに関して解説します。

なぜ予防接種を行うのか?

予防接種は感染症の原因となるウイルスや細菌に対する免疫を獲得することを目的としています。
免疫を獲得することで、感染症にかかることや、感染した場合の重症化を予防することができます(「個人の免疫」)。
また大部分の人が免疫を獲得することで、感染症の流行を防ぐ効果があります。これを「集団免疫」といいます。個人の感染・重症化の予防のみならず、集団免疫の点でワクチン接種は非常に重要です。

新型コロナワクチンの仕組み

これまでのワクチンは不活化ワクチンや生ワクチンと呼ばれるものが一般的でした。
不活化ワクチンや生ワクチンは、病原体(ウイルスや細菌)の感染力をなくしたり、弱毒化したものを用いて製造されてきました。
今回の新型コロナワクチンは「mRNAワクチン」や「ウイルスベクターワクチン」といい、新たな方法で製造されたワクチンです。

日本に導入予定のワクチンは米ファイザー社(mRNAワクチン)、英アストラゼネカ社(ウイルスベクターワクチン)、米モデルナ社(mRNAワクチン)になります。

mRNAワクチンとは?

生物の活動には様々なタンパク質が関わっています。
生物は細胞で日々たんぱく質を作っており、様々なたんぱく質の設計図を細胞内に記憶しています。その設計図が遺伝子、DNAです。ウイルスの場合はRNAといいます。

たんぱく質を作る時は、DNA(RNA)内の多くの設計図の中から、必要な設計図だけをコピー(転写)して取り出し、たんぱく質を合成する場所に運搬します。これをmRNA(メッセンジャーRNA)と呼びます。

コロナウイルスには「スパイク」という、目印になる蛋白質があります。
このスパイクにも設計図があり、それを活用したワクチンが今回のmRNAワクチンです。
mRNAワクチンは、スパイクの設計図(mRNA)を人工的に製造したもので、体内に注射(筋肉注射)することで免疫を獲得します。

細胞内に取り込まれた設計図(mRNA)をもとに、人間の細胞が「スパイク」を製造します。
スパイクはあくまでウイルスの目印になるもので、病原性はありません。
体内で製造されたスパイクを、免疫細胞が認識し、退治する訓練を行います。
この訓練によって免疫を獲得することで、本物のウイルスが侵入してきたときに素早く退治できます。

そして設計図としての役割を終えたmRNAは速やかに分解されます。
細胞のシステム上、設計図を改めて遺伝子・DNAに記録することはできないため、mRNAワクチンが人間の遺伝子・DNAに組み込まれることはありません。

mRNAワクチンは安全なのか?

新型コロナワクチンを含めた医薬品は安全性・効果確認したうえで、製造・販売されます。
臨床試験といい、「第1相試験」で、人間に投与して安全かを確認します。
安全性が確認されてから「第2相試験」「第3相試験」で、効果があるかを確認します。

今回の新型コロナワクチンも同様の手順を踏んでおり、従来のワクチンと比べて新型コロナワクチンが危険なわけではありません。
今回承認されたファイザー社の臨床試験では、海外6カ国(米国、ドイツ、トルコ、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ)において約4万人の被検者を対象に、約95%の効果が確認されています。また安全性に関しても、疲労や頭痛といった事象はあったものの、重大な安全性の懸念はないと報告されています。

副反応について

新型コロナワクチンは、免疫を獲得するために、人為的に軽い免疫反応を起こします。免疫反応により、副反応が起こる可能性があります。

ファイザー社の臨床試験では

接種部位の疼痛:66~83%
倦怠感:34~59%
頭痛:25~52%
筋肉痛:14~37%
関節痛:9~22%
悪寒:6~35%
発熱:1~16%

と報告されています。

発熱に関しては、2回目のワクチン接種後に38度以上の発熱が出た方は若年者で16%、高齢者で11%と報告されています。
また2回目のほうが、発熱の頻度が高いとされています。症状を和らげたい場合は、市販の「アセトアミノフェン」を使用を検討下さい。

またアレルギー反応がでることがあります。

ファイザー社やモデルナ社のワクチンには「ポリエチレングリコール」が含まれており、この成分にアレルギー反応を起こす方がおられます。
「ポリエチレングリコール」自体は、ほかの医薬品や化粧品などにも含まれており、人体に有害な成分ではありません。

アレルギー反応の最も重篤なものを「アナフィラキシー」といいます。(アナフィラキシーの診断基準は、簡潔には皮膚や粘膜の症状、呼吸器症状、循環器症状(血圧低下、意識消失など)、腹部症状(吐き気・嘔吐)のうち2つ以上あるものを言います。)
アナフィラキシーの頻度は100万回あたり約5人程度であり、他のワクチンと同程度とされています。
医療機関で使用される抗生物質の方が頻度が高いこともあります。
mRNAワクチンにアナフィラキシーが多いわけではありません。

変異株に効果はあるのか?

ウイルスや細胞は、増殖するために自分の遺伝子、設計図を基に同じウイルスや細胞を複製します。
しかしその複製の過程は完璧ではなく、設計図を複製するときにミスがおこり、設計図の一部が変わってしますことがあります。これが「変異」です。
新型コロナウイルスに限らず、あらゆるウイルスは絶えず変異をしています。
ウイルスが変異することで、病原性や感染力が増加してしますことがあります。「イギリス型」「南アフリカ型」「ブラジル型」「インド型」の変異ウイルスが報告されています。

新型コロナワクチンの変異ウイルスへの効果に関しても研究がすすんでいます。
カタールの研究では、ワクチン2回接種後にイギリス型では89.5、ブラジル型では75%に効果があったとされています。また重症化予防に関しては変異型にかかわらず97.4%と報告されており、新型コロナワクチンは変異株に対しても有効であると考えられます。

妊婦や妊娠を希望する場合のワクチン接種について

現時点では妊婦や妊娠に対する知見は十分ではなく、各国で意見が分かれているのが現状です。
mRNAワクチンが遺伝子に組み込まれることはなく、重症化予防のメリットが上回ると考えられています。米国では妊婦への接種が推奨されおり、英国では希望者には控える必要がないとしています。また米国生殖医学会は新型コロナワクチン接種のために、妊活や不妊治療を遅らせる必要はないとしています。
日本産婦人科学会も提言を公表しており、妊娠中の方や、妊娠を希望される方は是非ご一読いただければ幸いです。

最後に

新型コロナワクチンについて解説しました。

ワクチンの接種時期や場所に関しては各自治体のホームページや案内を確認してください。
新しいワクチンであり、接種に対して不安がある方も多いと思いますが、安全性や有効性は確認されています。
平和な日常を取り戻すために是非前向きに接種を検討いただければと思います。

参考文献)
Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine: Polack, FP, et al. N Engl J Med 2020
Effectiveness of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine against the B.1.1.7 and B.1.351 Variants: N Engl J Med 2020
日本アレルギー学会編:アレルギーガイドライン

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