大阪市平野区の「やまおか内科クリニック」です。
当院には糖尿病や生活習慣病、そして肥満のお悩みを抱える患者様が多く来院されます。特に最近は「GLP-1受容体作動薬」というお薬(注射薬のマンジャロやオゼンピック、飲み薬のリベルサスなど)が登場し、治療の選択肢が広がってきました。
そんな中、患者様からよくいただくご質問があります。
「せっかく注射で体重が減ったけれど、注射をやめたらリバウンドしませんか?」
「一生、注射を打ち続けないといけないのでしょうか?」
これは非常に切実な悩みです。注射薬は効果が高い反面、「痛い」「通院が大変」「保管が面倒」といったハードルがあり、治療を中断してしまうと、どうしても体重が元に戻ってしまう(リバウンド)リスクがあります。
そんな中、2025年12月18日、製薬大手のイーライリリー社から、「注射から飲み薬に切り替えた場合の体重維持」に関する非常に興味深い臨床試験(ATTAIN-MAINTAIN試験)の結果が発表されました。
今回は、この最新ニュースについて、わかりやすく解説します。
目次
■ 今回発表された新薬「オルフォグリプロン」とは?
まず、今回話題になっているお薬は「オルフォグリプロン(Orforglipron)」という名前です。
これは、現在開発中の「1日1回飲むタイプ」のGLP-1受容体作動薬です。
既存の飲み薬(リベルサスなど)との大きな違いは、「非ペプチド型」という化学的な構造にあります。少し専門的になりますが、これにより「胃の中での吸収が安定しやすい」「製造コストが抑えやすい」「食事や水分の摂取制限が厳しくない可能性がある」といったメリットが期待されています。一番のメリットは「空腹時に飲む必要がなく食後内服でも大丈夫」なことです。リベルサスと異なり服薬方法の厳しい制限がありません。
今回発表された試験は、そんな新薬の「注射で痩せた後、この飲み薬に変えても体重をキープできるか?」を調べたものでした。
■ 試験の内容:注射から飲み薬への「スイッチ」実験
この試験(ATTAIN-MAINTAIN試験 第3相)は、世界で初めて行われたユニークなデザインの臨床試験です。
対象となったのは、すでに強力な注射薬(マンジャロやウゴービ※日本ではウゴービは肥満症薬、マンジャロは糖尿病・一部肥満症薬として知られています)を約1年半(72週間)使用し、しっかりと体重が減った患者様たちです。
この患者様たちを、以下の2つのグループに分け、その後1年間(52週間)の体重変化を観察しました。
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「オルホルグリプロン(新薬の飲み薬)」に切り替えたグループ
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「プラセボ(偽薬)」に切り替えたグループ(つまり治療を中断した状態)
要するに、「注射をやめて飲み薬に変えた人」と「注射をやめて何もしなかった人」で、リバウンドの度合いがどう違うかを比べたのです。
■ 結果:飲み薬でリバウンドを強力にブロック!
結果は非常に明確でした。
1. 治療を中断した(プラセボ)グループ
注射をやめて偽薬に切り替えた方々は、1年間で体重が**約9kg以上もリバウンド(再増加)**してしまいました。やはり、肥満症は慢性疾患であり、治療を完全にやめてしまうと体は元の体重に戻ろうとすることがわかります。
2. 飲み薬(オルホルグリプロン)に切り替えたグループ
一方で、注射からこの飲み薬に切り替えた方々は、体重のリバウンドがほとんど見られませんでした。
- ウゴービから切り替えた人:
リバウンド幅はわずか平均0.9kg。注射で減らした体重のほとんどを維持できていました。
- マンジャロから切り替えた人:
リバウンド幅は平均5kg程度。
(※マンジャロはもともとの体重減少幅が非常に大きいため、少し戻り幅が大きく見えますが、プラセボ群と比較すると、その差は歴然としており、減少した体重の多くを維持できていました)
この結果から、**「強力な注射薬でガツンと体重を落とした後、手軽な飲み薬に切り替えて、その体重を維持する」**という新しい治療戦略が可能になるかもしれないことが示されました。
■ なぜこのニュースが重要なのか?
この結果は、患者様にとって3つの大きな意味があります。
①「注射疲れ」からの解放
「痩せたいけれど、注射はずっと続けられない」という方にとって、維持期を「飲み薬」で過ごせるようになれば、精神的・肉体的な負担が大きく減ります。旅行や出張の際も、冷蔵保存が必要な注射器を持ち歩く必要がなくなります。
② リバウンドの恐怖を軽減
「薬をやめたら戻る」という不安に対し、「維持するための飲み薬がある」というのは大きな安心材料です。肥満治療は「減らす期間」だけでなく「維持する期間」が一生続くものだからこそ、続けやすい選択肢が重要です。
③ 管理のしやすさ
オルホルグリプロンは、従来のGLP-1飲み薬(リベルサス)よりも服用時の制限(起床時空腹時に飲み、その後30分飲食禁止など)が緩和される可能性が示唆されており、日常生活に取り入れやすいと期待されています。
安全性に関しても、これまでのGLP-1受容体作動薬と同様に、吐き気や便秘などの胃腸障害が報告されていますが、多くの場合は軽度〜中等度で、これまでの薬と変わらないプロファイル(副作用の傾向)だったとのことです。
■ 今後の展望:いつ使えるようになるの?
さて、一番気になる「いつから使えるのか?」という点ですが、現時点では**「まだ開発中の薬」**です。
イーライリリー社は、この結果を受けてアメリカのFDA(食品医薬品局)へ承認申請を行ったと発表しました。アメリカで承認された後、日本でも承認申請や審査が行われる流れになりますので、日本のクリニックで実際に処方できるようになるには、もう少し時間がかかりそうです(早くて数年以内の登場が期待されます)。
しかし、今回のニュースは**「肥満症治療は、つらい注射を一生続けるだけではない未来が来る」**という明るい希望を見せてくれました。
■ 最後に
肥満症や糖尿病は、一時的なダイエットで終わらせるものではなく、長く付き合っていく必要のある病気です。
「まずは注射でしっかり数値を改善し、その後は飲み薬でコントロールする」
そんな柔軟な治療ができる時代が、すぐそこまで来ています。
当院では、現在使用可能なGLP-1受容体作動薬(内服・注射)を含め、患者様のライフスタイルに合わせた最適な治療法を提案しております。「今の治療が辛い」「リバウンドが怖い」といったお悩みがあれば、ぜひ診察室でお気軽にご相談ください。
新しいお薬の情報が入りましたら、またこのブログでわかりやすくご紹介していきます!
平野区やまおか内科クリニック
院長 山岡 祥
※本記事は2025年12月時点の海外プレスリリース情報を元に作成しています。オルホルグリプロンは日本国内では未承認であり、実際の効果・効能や副作用、処方開始時期を保証するものではありません。








