膵がんの新薬daraxonrasibが米国FDA承認|RASを狙う新しい治療とは?

「膵がんに新しい薬が承認されたって本当?」「これまでの抗がん剤とは何が違うのでしょうか?」

2026年8月26日、米国FDAは転移性膵腺がんに対する新薬daraxonrasib(ダラクソンラシブ、米国商品名RASONQUE)を承認しました。長年、薬で直接狙うことが難しいと考えられてきた「RAS」を標的とする新しい治療薬です。今回は最新の研究結果とともに、膵がんの早期発見のために知っておきたい症状、腹部エコー、糖尿病との関係について解説します。

1. 膵がんの9割以上に関係する「RAS」を狙う新薬

膵がんの大部分を占める膵管腺がんでは、90%以上でRAS経路に関係する遺伝子変異がみられ、その中心となるのがKRASです。

RASは、細胞に「増殖する」という信号を伝えるタンパク質です。KRASなどに遺伝子変異が起こってRASのスイッチが異常に入り続けると、がん細胞が増殖する大きな原因になります。

ところがRASは薬剤が結合しやすい部分が少ないため、長い間、直接治療することが難しい標的と考えられてきました。

膵がんでKRAS変異によりRASの増殖シグナルが活性化する仕組みとdaraxonrasibの作用を示した図

膵がんの多くでは、KRASなどの異常によってRASの増殖シグナルが活性化しています。

daraxonrasibは、活性化しているRASを標的とするRAS(ON) multi-selective inhibitorです。

これまで登場した一部のKRAS阻害薬がKRAS G12Cなど特定の遺伝子変異を狙うのに対して、daraxonrasibは複数のRAS変異を標的にできることが特徴です。

daraxonrasibは従来の抗がん剤と何が違う?

従来の化学療法が主に増殖の速い細胞を攻撃するのに対し、daraxonrasibはがん細胞の増殖を支えているRASという分子そのものを狙う分子標的薬です。

2. daraxonrasibは膵がん以外のがんでも研究されている

RASの異常は膵がんだけに存在するものではありません。肺がんや大腸がんなど、さまざまながんでRAS・KRASの異常が認められます。

そのためdaraxonrasibも、膵がんだけを対象とした薬としてではなく、RASの異常を持つさまざまな固形がんに対して開発が進められてきました。非小細胞肺がんなどでも臨床試験が行われています。

つまり「膵臓という臓器を狙う薬」というよりも、がん細胞が持つRASという共通した特徴を狙う薬と考えると分かりやすいでしょう。

今回、実際に膵がんでFDA承認に至ったことは、膵がん治療だけでなく、長年研究されてきたRASを標的としたがん治療全体にとっても大きな一歩だと思います。

3. 臨床試験では全生存期間13.2か月|daraxonrasibの効果は?

FDA承認の根拠となった国際第3相試験「RASolute 302」では、治療歴のある転移性膵腺がん患者500人を対象に、daraxonrasibと標準化学療法が比較されました。

daraxonrasibと標準化学療法の全生存期間と無増悪生存期間を比較したRASolute 302試験結果

RASolute 302試験では、全生存期間・無増悪生存期間ともにdaraxonrasib群で延長しました。

RASolute 302試験の主な結果

全生存期間中央値
daraxonrasib:13.2か月
標準化学療法:6.7か月

無増悪生存期間中央値
daraxonrasib:7.2か月
標準化学療法:3.6か月

また、治療によってがんが一定以上小さくなった患者さんの割合を示す奏効率についても、daraxonrasib群で良好な結果が報告されています。

この結果は2026年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で報告され、同年にNew England Journal of Medicine(NEJM)にも掲載されました。

ただし、「13.2か月」という数字がすべての患者さんの余命を表すわけではありません。また、「すべての患者さんの生存期間が約2倍になる」と解釈することも適切ではありません。

それでも、これまで治療選択肢が限られていた治療後の転移性膵がんで、生存期間の明確な延長が示されたことは非常にうれしい結果と考えます。

4. daraxonrasibは日本でも使える?対象となる患者さんは?

FDAが承認した対象は、少なくとも1つの全身治療歴がある、または多剤併用による全身療法が適さない成人の転移性膵腺がんです。

早期膵がんを治療する薬や、膵がんを予防する薬ではありません。

また、2026年8月時点では米国での承認であり、日本では未承認です。FDAによる審査には日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)もオブザーバーとして参加していますが、日本国内で使用できるようになるかについては、今後の承認審査を待つ必要があります。

副作用として、発疹、下痢、口内炎、吐き気、倦怠感などがみられるほか、皮膚・軟部組織障害、消化管穿孔、間質性肺疾患などにも注意が必要とされています。

「膵がんが治る新薬」という意味ではありません

daraxonrasibは非常に期待される治療ですが、膵がんを必ず治す薬ではありません。今回の結果は、対象となった患者さん全体として従来の化学療法より良好な治療成績が得られたことを示したものです。

5. 膵がんの初期症状は?早期には症状がないことも

治療が進歩する一方で、膵がんでは依然として早期発見が重要です。

しかし膵がんは、小さいうちは特徴的な症状が出ないことも少なくありません。

進行すると、みぞおちの痛み、背中や腰の痛み、食欲低下、体重減少、黄疸などがみられることがありますが、これらはいずれも膵がんだけに起こる症状ではありません。

そのため症状だけで膵がんを早期に見つけることは難しく、症状・血液検査・画像検査・持病の変化などから「一度膵臓を調べた方がよいのでは」と考えるきっかけを見逃さないことが大切だと考えています。

6. 腹部エコーで膵がんは分かる?精密検査につなげる役割

膵臓を調べる方法の一つが腹部エコー(腹部超音波検査)です。

腹部エコーでは膵臓そのものの腫瘤だけでなく、膵管拡張、膵嚢胞、IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)、胆管拡張など、膵臓の精密検査を検討するきっかけとなる所見が見つかることがあります。

一方、膵臓は胃や腸の奥に位置するため、腸管ガスや体格などの影響で膵臓全体を観察できないこともあります。そのため、腹部エコーが正常だから膵がんを完全に否定できるわけではないことには注意が必要です。

私は腹部エコーを「膵がんがないことを証明する検査」というより、膵臓の異常を拾い上げ、必要に応じてCT、MRI・MRCP、超音波内視鏡(EUS)などの精密検査につなげる検査と考えています。

腹部エコーで異常が見つかったら

膵管の拡張や膵嚢胞などが確認された場合には、その所見や年齢、症状、血液検査などを踏まえて、CT・MRI/MRCP・EUSなどによる精密検査が必要か判断します。

7. 糖尿病の急な発症・悪化は膵がん発見のきっかけになることも

もう一つ、膵がんの診療で知っておきたいのが糖尿病との関係です。

糖尿病は膵がんのリスク因子の一つである一方、膵がんが原因となって血糖値が悪化したり、新たに糖尿病を発症したりすることもあります。

もちろん、糖尿病になったから膵がんを疑う、という意味ではありません。糖尿病は非常に多い病気であり、その大部分は膵がんとは関係なく発症します。

糖尿病やHbA1cの急な悪化から膵がんの精密検査を考えるサインと腹部エコーなどの検査の流れ

糖尿病の急な発症・悪化に体重減少などを伴う場合は、膵臓を確認するきっかけになることがあります。

一方で、次のような変化がある場合には、年齢や症状なども踏まえ、必要に応じて膵臓を確認することがあります。

それまで問題なかった血糖値が急に上昇した

生活習慣が大きく変わっていないのにHbA1cが急に悪化した

血糖値の悪化とともに体重が減ってきた

腹痛や背部痛、黄疸などを伴っている

日常的に糖尿病を診療しているからこそ、こうした「普段とは少し違う血糖値の変化」を見逃さないことも、膵がんを発見するきっかけの一つになると考えています。

糖尿病と膵臓・消化器の検査について詳しく知りたい方へ

糖尿病の方で腹部エコーや内視鏡検査を検討する理由について、当院の固定ページでも詳しく解説しています。

糖尿病と消化器がん・腹部エコーについて詳しく見る

8. 膵がん治療の進歩と、私たちができる早期発見

daraxonrasibのFDA承認は、膵がんの最新治療における重要なニュースです。

長年、薬で狙うことが難しいとされてきたRASを直接標的とする治療が、実際の診療に入ってきたことには大きな意味があります。

一方で、治療薬の進歩だけでなく、膵がんを疑う小さなサインを見逃さず、適切な検査につなげることも引き続き重要です。

腹部症状や原因不明の体重減少、黄疸、糖尿病の急な発症・悪化などがある場合には、腹部エコーをはじめ、必要に応じてCT、MRI・MRCP、EUSなどを検討します。

新しい治療薬のニュースを追いながら、日々の診療では「どうすれば膵がんをより早く見つけられるか」という視点も大切にしていきたいと思います。

大阪市平野区を中心に、東住吉区・生野区など近隣にお住まいの方で、腹部症状や血液検査の異常、糖尿病の急な悪化などが気になる場合はご相談ください。

9. 膵がん・daraxonrasibについてよくある質問

Q
daraxonrasibは日本でも使用できますか?

A

2026年8月時点では米国FDAによる承認であり、日本では未承認です。日本国内で通常診療として使用できるようになるかについては、今後の承認審査を確認する必要があります。
Q
腹部エコーが正常なら膵がんは大丈夫ですか?

A

腹部エコーだけで膵がんを完全に否定することはできません。膵臓は胃や腸の奥に位置するため、一部が見えにくいことがあります。症状や血液検査、エコー所見などから膵疾患が疑われる場合には、CT、MRI・MRCP、EUSなどの精密検査を検討します。
Q
糖尿病が急に悪化したら膵がんの検査が必要ですか?

A

糖尿病の悪化だけで膵がんと判断することはできません。ただし、生活習慣が変わっていないのに急激にHbA1cが上昇した場合や、体重減少・腹痛・背部痛・黄疸などを伴う場合には、年齢や経過を踏まえて膵臓の画像検査を検討することがあります。

10. 参考文献

1. U.S. Food and Drug Administration. FDA Approves First-in-Class Targeted Therapy for Metastatic Pancreatic Cancer. August 26, 2026.

2. U.S. Food and Drug Administration. FDA approves daraxonrasib for metastatic pancreatic adenocarcinoma. August 26, 2026.

3. O’Reilly EM, Wainberg ZA, Hendifar AE, et al. Daraxonrasib or Chemotherapy in Previously Treated Metastatic Pancreatic Cancer. N Engl J Med. 2026;395:325-337. doi:10.1056/NEJMoa2605555.

4. Wolpin BM, Park W, Garrido-Laguna I, et al. Daraxonrasib in Previously Treated Advanced RAS-Mutated Pancreatic Cancer. N Engl J Med. 2026;394:1790-1802. doi:10.1056/NEJMoa2505783.

5. National Cancer Institute. Pancreatic Cancer Treatment and Advances in Pancreatic Cancer Research.

6. 日本膵臓学会 編. 膵癌診療ガイドライン. 金原出版.

この記事を書いた人

やまおか内科クリニック

院長 山岡 祥

大阪大学医学部卒業

日本内科学会 総合内科専門医

日本消化器病学会 消化器病専門医

日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医

日本糖尿病協会 登録医

大阪市平野区のやまおか内科クリニックで、一般内科・消化器内科・糖尿病診療を行っています。腹部エコーや胃カメラ・大腸カメラなどの検査と日常の血液データを組み合わせ、消化器疾患や生活習慣病の早期発見につなげる診療を大切にしています。

腹部症状や血糖値の急な変化が気になる方へ

腹痛や背部痛、原因不明の体重減少、黄疸、糖尿病の急な発症・悪化などがある場合には、症状や血液検査を確認したうえで、必要に応じて腹部エコーなどの検査を検討します。大阪市平野区・東住吉区・生野区周辺で気になる症状がある方はご相談ください。

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