近年、「ゼップバウンド(チルゼパチド)」「ウゴービ(セマグルチド)」といった新しい肥満治療薬が大きな話題となっています。ゼップバウンド・ウゴービは同一成分のマンジャロ・オゼンピックとして糖尿病診療で使用されています。減量効果が非常に高く、テレビやインターネットでも取り上げられ、当院でも「ぜひ使いたい」というご相談が増えています。
一方で、「保険でできると思って来たのに、保険適用ではないと知ってがっかりした」という声も少なくありません。
この記事では、
✔ なぜゼップバウンド・ウゴービが保険でなかなか使えないのか
✔ どのような場合なら医療保険で使用できるのか
✔ 保険診療と自費診療の違い
✔ 肥満外来でできること・できないこと
について、できるだけ分かりやすく解説します。
目次
1. まず確認:“肥満症”というだけでは保険適応できない
はじめに、ご自身のBMIを確認してください。
BMI = 体重kg ÷ (身長m)2
BMIは18.5~25が普通体重、BMI25以上を「肥満」と判定します。ではBMI25以上であれば使えるのか?というとそうではありません。
現在、ゼップバウンドもウゴービも 「肥満症の治療薬」ではありますが、“肥満だけ”を理由に保険で使うことはできません。
実は、肥満に対する薬の保険適用は厳しく定められており、
「高度の肥満(BMI35以上)or特定の合併症を持つ限られたケース」
かつ
「6か月以上食事運動療法に取り組んだ方(2か月に1回以上栄養指導を受ける必要がある)」
かつ
「病院が教育研修施設であること(クリニックでは実質不可能)」
を全て満たした場合のみ、医療保険での処方が認められています。(イーライリリー株式会社「ゼップバウンド(チルゼパチド)について投与対象となる患者に条件等はあるか?(最適使用推進ガイドライン、留意事項通知について))
つまり、「BMIが高いから使いたい」「ダイエット目的で使いたい」という理由では、保険適用になりません。
2. 保険で使えるケース

まずゼップバウンドとマンジャロは成分が同じです。ウゴービとオゼンピックも同様です。
肥満治療に使用する場合はゼップバウンドorウゴービ、糖尿病診療に使用する場合はマンジャロ・オゼンピックを使用します。
同一成分であるため自由診療では肥満治療にマンジャロやオゼンピックが使用されています。
◆ ゼップバウンド(チルゼパチド)・ウゴービ(セマグルチド)
ゼップバウンド・ウゴービが保険で使えるのは以下の①~③の条件を全て満たした場合です。
条件①高度の肥満(BMI35以上)orBMI27以上で特定の合併症がある※
(※(1)耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)(2)脂質異常症(3)高血圧(4)高尿酸血症・痛風(5)冠動脈疾患(6)脳梗塞(7)非アルコール性脂肪性肝疾患(8)月経異常・不妊(9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群(10)運動器疾患(11)肥満関連腎臓病)
条件②「6か月以上食事運動療法に取り組んだ方(2か月に1回以上栄養指導を受ける必要がある)」
条件③「病院が教育研修施設であること(クリニックでは実質処方不可)」
診療所では主に①の判定をさせて頂きます。
①を満たし、食事運動療法を半年間取り組む意思のある方は(②が可能な方)は③の施設へご紹介させていただきます。

◆ マンジャロ・オゼンピック
こちらは2型糖尿病治療薬であるため、糖尿病と診断された方は使用可能です。
【糖尿病と診断されるための代表的な基準】
- HbA1c 6.5%以上
- 空腹時血糖 126mg/dL以上
- 75gブドウ糖負荷試験の2時間値 200mg/dL以上
(複数回の確認が必要なことも)
現在糖尿病でない方が「保険で使いたい」という理由でマンジャロ・オゼンピックを使うことはできません。
3. 医療保険で使えないパターン
ゼップバウンド・ウゴービ・マンジャロ・オゼンピックが保険で使用できない例を挙げると
- BMI=26の肥満の方
- BMI=28、脂肪肝のみの方
- BMI=37、食事運動療法はしたくない。今すぐ薬が欲しい方
などが考えられます。またそもそも肥満でない場合は使用は推奨されません。
4. 肥満外来でできること
当院では、保険でできる範囲、自費でできる範囲を明確に分けて診療を行っています。
◆ 保険でできること
- 合併症(高血圧・脂質異常症・糖尿病など)の評価
- 食事・運動指導
- 血液検査、身体測定
- 生活習慣病に対する薬物療法
◆ 自費診療でできること
- マンジャロなどのGLP-1受容体作動薬での肥満症治療
初診時にご説明し、
「保険でできる部分」と「自費になる部分」
を丁寧にお伝えすることを大切にしています。
5.「保険にしてほしい」というお声に対して
患者さんから最も多いご質問が、「なぜ保険にしてくれないんですか?」というものです。
しかし、保険適用かどうかは国(厚労省)で決められており、医療機関の裁量では決められません。
当院としては、保険で可能な範囲の治療を最大限行い、その上で希望される方には自費治療も選択肢として提示しています。
6. まとめ:正しい理解で、最適な肥満治療を
- ゼップバウンド・ウゴービは「肥満症」だけでは保険適用になるとは限らない。
- 糖尿病があれば「糖尿病治療用の薬」としてなら保険で使用できる可能性がある。
- 必要に応じて自費診療として選択可能
肥満治療は「薬だけ」で完結するものではありません。
生活習慣の見直し、合併症リスクの管理、心理的なサポートなど、総合的に取り組むことが大切です。
当院では、一人ひとりの状態に合わせて、最も負担が少なく、かつ効果の高い治療を提案しています。
肥満でお困りの方はお気軽にお問い合わせください。










