日本人の2型糖尿病対象としたGLP-1受容体作動薬(GLP-1製剤)の効果を比較した論文(ネットワークメタアナリシス)が横浜市立大学から発表されました。
2010年にGLP-1製剤(バイエッタ・ビクトーザ)が登場して以来、週1回の注射や内服薬など多くのGLP-1製剤が保険適応となりました。HbA1c低下効果はさることながら、体重減少効果も期待できることからダイエット目的での広告も目にする機会も増えています。(海外では肥満患者さんに対して使用可能となっており、今後日本でも導入される予定です。)さらに2023年4月には新薬のGIP/GLP-1製剤(マンジャロ)も処方可能となり、糖尿病治療薬は目まぐるしく進歩しているのが現状です。
様々なGLP-1製剤が処方可能となる中で、それぞれの薬での治療成績は報告されてきましたが複数のGLP-1同士を比較したデータ、特に
・新薬マンジャロとオゼンピック・リベルサスとの比較
・オゼンピック(セマグルチドの注射薬)とリベルサス(セマグルチドの内服薬)の効果の違い
についての日本人患者での比較データは存在しませんでした。
「日本人の2型糖尿病患者を対象としたGLP-1製剤の治療成績」に関する複数の論文・臨床試験を解析し、マンジャロ、オゼンピック、リベルサスを含んだ複数のGLP-1製剤の効果を比較した論文(ネットワークメタアナリシス)が報告されましたので紹介します。
横浜市立大学から発表された論文で、雑誌「Diabetes, Obesity and Metabolism」に掲載されています。
「Effect of tirzepatide on glycemic control and weight loss compared with other glucagon-like peptide-1 receptor agonists in Japanese patients with type 2 diabetes mellitus」
概要
ネットワーク解析の為に抽出された論文の条件は以下の通りです
- 査読された雑誌に掲載されていること
- 20歳以上の日本人が対象であること
- GLP-1製剤と経口血糖降下薬(プラセボを含む)を比較したランダム化比較試験であること
- 24週間以上フォローされており、HbA1cが評価項目となっていること。
これらを満たす14本の論文中の18個の比較試験(日本人3875名)が抽出され解析されました
結果
HbA1cの低下
- マンジャロ、オゼンピック、リベルサスは容量が増えるほどHbA1c低下効果が高くなる。
- マンジャロ15mgは治療効果が最も高く、HbA1cを2.8%低下させた。
- マンジャロ15mgはオゼンピック1mgやリベルサス14mgと比較しても有意にHbA1cを低下させた。
- マンジャロ10mg/5mgはオゼンピック1mgと同等のHbA1c低下効果あり、オゼンピック0.5mgやリベルサス14mgよりHbA1c低下効果が優れる。
- オゼンピック1mgはリベルサス14mgより有意にHbA1cが低下する。
- リベルサス14mgはオゼンピック1mg/0.5mgよりHbA1c低下幅は少ない。
- マンジャロ15/10/5mg、オゼンピック1/0.5mg、リベルサス14mgはトルリシティよりHbA1cが低下する。
(横軸がHbA1c低下効果)
体重減少効果
- マンジャロ15mgの体重減少効果が最大であり-9.5kgの体重減少(プラセボと比較)。
- オゼンピック1mgは-4.4kg、セマグルチド14mgは-2.6kg(プラセボと比較)であった。(※有意差はなし。)
- マンジャロ10mgとオゼンピック1mgは有意差なし。
- マンジャロ10mgはリベルサス14mgより有意に体重減少効果あり。
- トルリシティ、ビクトーザ(0.6、0.9、1.8)では有意差なし、プラセボと比較すれば有意差あり。
(横軸が体重減少効果)
HbA1c:7%以下の達成率
- マンジャロ15mgはオゼンピック1mg、リベルサス14mgと同等
- オゼンピック1mgはオゼンピック0.5mg、リベルサス7/3mg、トルリシティ、ビクトーザ0.6/0.9mgより7%以下の達成率が高い。
有害事象(副作用)の発生率
- マンジャロ5/10/15mg、オゼンピック0.5/1mg、リキスミアはトルリシティと比較して消化器症状の副作用発生率が高い。(消化器症状:嘔気・嘔吐・下痢・便秘・腹部不快感など)
- 嘔気や便秘はマンジャロとオゼンピックで多い傾向があったが下痢に関して差はない。
- 重大な有害事象に関しては差は認めない。
まとめ
実臨床での使用感と概ね同じ結果かと思います。
やはりHbA1c低下・体重減少共にマンジャロの効果が際立った結果となっています。15mgまで増量するケースは稀かもしれませんが5mg~10mgでも高い効果が期待できます。さらに興味深いのが、有意差はなかったものの、同じ成分であるオゼンピック(注射薬)、リベルサス(経口薬)に関しては注射薬であるオゼンピックの方が効果が高い傾向がみられたことです。より治療を強化する必要がある場合には注射薬のオゼンピックが適しているのかもしれません。
ただ注射薬・経口薬ともにトルリシティやビクトーザと比較して高い効果が確認されているので、個々の患者さんのライフスタイルに併せて使い分けが可能ですね。トルリシティに関しては体重減少効果が少ないことが、ご高齢の方や瘦せ型の人にとっては逆にメリットとなるケースもあります。
マンジャロやオゼンピック/リベルサスでは体重や血糖の変化だけでなく、心血管イベントや腎イベントのリスク低下効果も報告されはじめており、糖尿病治療において今後ますます目が離せない薬剤です。
※注意※
2023年10月時点で、マンジャロに関しては流通制限がかかっており、新規での処方開始や7.5mg以上への増量が困難になっています。