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便秘の定義 と診断基準
便秘症の患者さんは多く、人口の2~28%と言われています。女性に多く、加齢に伴って増える傾向があります。
便秘の定義は様々ですが、
日本内科学会では「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」
慢性便秘症ガイドラインでは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できていない状態」と定義されています。
慢性便秘症ガイドラインでの診断基準は下記のようになっています。
1「便秘症」の診断基準
以下の6項目のうち2項目以上を満たす
a.排便の4分の1超の頻度で,強くいきむ必要がある.
b.排便の4分の1超の頻度で,兎糞状便または硬便である.
c.排便の4分の1超の頻度で,残便感を感じる.
d.排便の4分の1超の頻度で,直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある.
e.排便の4分の1超の頻度で,用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など).
f.自発的な排便回数が,週に3回未満である.2「慢性」の診断基準
6ヶ月以上前から症状があり、最近3か月間は上記の基準をみたしていること
排便回数が少ないことや、残便感があることが必ずしも便秘とは限らないため注意が必要です。食事が不十分で腸の中の便が少なければ、排便回数は減ります。また便に対するこだわりが強く、肛門付近に便がないにも関わらず残便感を訴えられる方もおられるため、総合的に判断する必要があります。
便秘の原因ーなぜ便秘になるのか?ー
便秘には、明らかな他の原因がある「二次性便秘」と、原因が特定できない「機能性便秘」があります。
便秘と診断された場合はまず、二次性便秘かどうかを判断する必要があります。
二次性便秘症はさらに大きく3つのタイプに分けられます。
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このような明らかな原因が特定できない便秘を“機能性”便秘と言います。
便秘にはこの機能性便秘が最も多く、以下の3つのタイプに分類されます。
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このように便秘の原因は様々です。特に大腸癌は早期発見と適切な治療介入が必要な疾患です。体重が減った、急に便秘になった、貧血の症状がある(ふらつく、息切れしやすい等)、便に血が混じる、嘔吐がある、などの症状があれば注意が必要です。自己判断はせずに、早めにかかりつけの医師にご相談下さい。
どんな検査をするのか
上述したように、便秘には様々なタイプ・原因があります。原因を探るためには、患者さんの問診内容が非常に大切になります。
便秘で受診された方には以下の内容をお聞きします。
・いつから便秘なのか
・大きな病気をされたことがあるか
・治療中の病気はあるか
・服用している薬があるか
・1日の排便回数
・便の硬さや形
・便秘の症状について(腹痛、出にくい、残便感、便意がない、等)
・ほかの症状はないか(発熱がある、便に血が混じる、体重が減った、等)
・その他(大腸の病気がある、家族に大腸の病気の人がいる、等)
(慢性便秘症ガイドラインより引用)
問診をもとに、便秘の原因となる別の病気が隠れている可能性が高いと判断した場合は、追加で検査を行います。クリニック、診療所で行う検査としては、レントゲン、血液検査、大腸内視鏡検査等があります。さらに詳しい検査が必要な場合は大きな病院でCTを撮影することもあります。
便秘の治療
明らかな便秘の原因が存在する“二次性便秘症”の場合は、原因となる病気の治療や、便秘を引き起こす内服薬を整理することが大切です。それでも便秘が良くならない場合は、生活習慣を見直したり、”便秘薬”を使用することになります。
一般的に多くみられる“機能性便秘”の場合も、生活習慣の見直しを行い、必要に応じて便秘薬を使用します。
生活習慣について
「食事療法」
主に 食物繊維の摂取が重要 になります。
食物繊維には便が大腸を通過する時間を短くし、便の量を増やす働きがあります。
食物繊維を多く摂る方法としては
- 白米に雑穀を加える、玄米を取り入れる
- パンの場合は玄米パンや、胚芽パン、クルミパンを食べる
- うどんよりそばを食べる
- 海藻や果物を多く摂る
などがあります。
また腸内細菌を整えるために、 発酵食品・乳製品・大豆製品 も効果的です。
「運動療法」
ウォーキングやランニングといった有酸素運動が便秘の症状を改善すると報告されています。
「その他」
排便時の姿勢も大切です。
前傾姿勢になることで排便が容易になります。具体的には、便座に座った際に足台を用いて膝を抱えるような姿勢にすると効果的です。
薬物療法
症状が強い場合や、食事・運動療法を行っても症状が良くならない場合は内服薬を使います。
便秘薬は「刺激性下剤」と「非刺激性下剤」に分けられます。
「刺激性下剤」は腸を刺激して、腸の蠕動を活発化させて排便を促す薬です。
「非刺激性下剤」は便を柔らかくすることで、排便しやすくする薬です。
刺激性下剤はセンノシド(センナ、プルゼニド、アローゼン)、ピコスルファート(ラキソベロン)が代表的です。刺激性下剤はいわば、腸を無理やり動かす下剤です。昔から使用されてり効果の高い薬ですが、長期間の使用によって大腸が疲れてしまい、腸の動きが鈍くなることがあるため注意が必要です。
非刺激性下剤にはたくさんの薬があります。
代表的なものは酸化マグネシウム、ルビプロストン(アミティーザ)、エロキシバット(グーフィス)、リナクロチド(リンゼス)などがあります。作用する機序は様々ですが、便を硬さを調整する効果や、便意を催す作用などがあります。酸化マグネシウムはドラッグストアでも販売されており、ご存じの方も多いかと思います。まずは1種類から治療をはじめ、症状に応じてこれらの薬を併用することもあります。 基本的には「非刺激性下剤」を使用し、どうしても便がでないときに「刺激性下剤」を使用する 使い方が多いです。
最後に
便秘の原因と治療法を簡潔に解説いたいしました。便秘に悩まれる方は沢山おられます。
一口に便秘と言っても原因は様々であり、中には重大な病気が隠れていることもあります。それぞれの患者さんに合った検査や治療法を提案させて頂きます。便秘でお悩みの方は、お気軽にやまおか内科(大阪市平野区・JR平野駅)にご相談ください。
参考文献)
日本消化器病学会関連研究会, 慢性便秘の診断・治療研 究会:慢性便秘症診療ガイドライン 2017.南江堂
高野ら, 日本大腸肛門病会誌 2019; 72:621-627