糖尿病のお薬が「認知症予防」にもつながるかも?

糖尿病と認知症に関するとても興味深い最新の研究についてご紹介します。実は、2型糖尿病の方は、そうでない人に比べて認知症のリスクが高いということがわかっています。糖尿病の薬の種類によっては、認知症発症のリスクを下げられるかもしれません。

最近アメリカで行われた大規模な研究で、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)SGLT2阻害薬(SGLT2i)という種類のお薬が、将来的な認知症のリスクを下げる可能性があるという結果が出ました。

今回はその内容を、わかりやすくお伝えします。

どんな研究だったの?


この研究は、2014年から2023年までの間にアメリカ・フロリダ州などで診療を受けた、50歳以上の2型糖尿病の患者さん約40万人のデータを使ったものです。

研究チームは、この中からすでに認知症と診断されたことがない人を選び、3つのグループに分けて比較しました。

1:GLP-1RA(例:オゼンピック、ビクトーザなど)を使い始めた人
2:SGLT2i(例:ジャディアンス、フォシーガなど)を使い始めた人
3:他の糖尿病の薬(主にDPP-4阻害薬など)を使い始めた人

そして、それぞれのグループで「その後、認知症になった人がどれくらいいたか」を調べました。

どんな結果だったの?


とても興味深い結果が得られています。

  • GLP-1RAを使い始めた人は
    認知症の発症リスクが約33%低かった(ハザード比 0.67)

  • SGLT2iを使い始めた人は
    認知症の発症リスクが約43%低かった(ハザード比 0.57)

  • GLP-1RAとSGLT2iを比較したところ、有意な差は見られませんでした。
    ➤ どちらも認知症リスクを下げる可能性があるということです。

これらの結果は、年齢や性別、他の病気などの条件をそろえて比較したもので、信頼性が高いとされています。

なぜ、これらのお薬が認知症のリスクを下げるの?


まだはっきりとした理由はわかっていませんが、いくつかの可能性が考えられています。

  • GLP-1RAは、脳の神経細胞の働きを守る「神経保護作用」があるのではないかと期待されています。

  • SGLT2iは、血糖値だけでなく、血圧や体重にも良い影響があり、全身の血管や代謝に良い作用を与えることから、間接的に脳にも良いのではないかと考えられています。

これらのお薬は、近年「心臓病や腎臓病の予防にも効果がある」と注目されていますが、今回の研究では「脳」にとっても良い可能性が示されたのです。

すぐに薬を変えた方がいいの?


ここで大切なのは、「認知症が心配だから今すぐ薬を変えた方がいい」という話ではないということです。
お薬の選び方は、患者さん一人ひとりの体の状態や、他に持っている病気、生活スタイルなどによって異なります。

ただし、この研究結果は、将来的に認知症のリスクも考慮しながら薬を選ぶという視点が、今後の医療の中で重要になるかもしれない、ということを示しているのです。すでにGLP-1RAやSGLT2iを使っている方は、「自分の薬が脳の健康にも役立っているかもしれない」と前向きに捉えていただけたらと思います。

まとめ


✔ 2型糖尿病の人は、認知症のリスクが高くなる傾向がある
✔ GLP-1RAやSGLT2iを使っている人は、他の薬を使っている人よりも認知症の発症リスクが低かった
✔ GLP-1RAとSGLT2iの間には、リスクの差はみられなかった
✔ 薬の変更を考える前に、主治医とよく相談することが大切


認知症は多くの方が不安に感じる病気の一つです。糖尿病の治療をしながら、将来の健康を考えていくことはとても大切なことです。今回の研究は、「薬の力で、脳の健康を守る」そんな可能性を感じさせてくれるものでした。

平野区のやまおか内科クリニックでは糖尿病診療に積極的に取り組んでいます。気になることがあれば、いつでもご相談ください。

文献)
GLP-1RA and SGLT2i Medications for Type 2 Diabetes and Alzheimer Disease and Related Dementias JAMA Neurol 2025 May 1;82(5):439-449

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